人を嫌いになること

 

私が今の会社に入社して2年目に、会社の同僚で、とても嫌な女子社員がいました。

彼女は私よりベテランで、長く勤めているだけあって、仕事はよくできました。

 

彼女は気が強く、よく言えばこころが熱くなる情熱家、悪く言えばすぐに頭に

血が上る瞬間湯沸かし器のような人でした。

 

彼女は自分勝手で、自分が忙しい時は、私の仕事に関係なく仕事を振ってきました。

 

私の仕事に余裕がある時ならいいのですが、忙しい時でもなりふり構わず

私に仕事を振るのでとても困りました。

 

そのくせ、私が忙しくて雑な仕事をしているといつも厳しく注意します。

私はいつも彼女に監視されているような気がしました。

 

でも、私がしたことのない仕事を頼まれた時、「この仕事はやったことがない」と

切り返すと彼女は「こんなことも知らないの」と言いますが丁寧に教えてくれました。

 

彼女のペースで仕事を振り回される私は、彼女が大嫌いでした。

私はいつか彼女にやり返してやろうと、いつも思っていました。

 

ある時彼女は、忙しかったのか、仕事で初歩的なミスをしてしまい、上司に

叱られていました。

 

私はそれを見た後、彼女に、「あなたでもこんな単純なミスをすることがあるん

ですね」と薄笑いをして言いました。

 

すると、彼女はみるみる顔色が変わって、怒りが顔に表れてくるのがわかりました。

私はそれを見てこれは大変なことになったと思いました。

 

プライドを傷つけられた彼女は、急ぎの仕事でなくても、どんどん私に仕事を

振ってきました。

 

私は仕返しをしたつもりでも、彼女から2倍になって返ってきたので、

私のこころは傷つき、あんな事言わなければよかったと悔やみました。

 

それから私のこころはだんだん重く沈んできました。

私は身勝手な彼女と一緒に働くことで、毎日がとても憂鬱でした。

 

特に日曜日の夜、テレビでサザエさんの放送が終わる頃になり、また明日

彼女の顔を見なければならないのかと思うと、とても気分が落ち込みました。

 

でも多くの同僚は彼女のことをとても親切でいい人だと言います。

私は彼女のどこが親切なのかまったくわかりませんでした。

 

ある時、私は仕事がお休みで、スーパーにクルマで買い物に行こうと思い、

途中、赤信号で停車していると、同僚の彼女が近くを歩いているのが見えました。

 

彼女の反対側の歩道には、車いすに乗ったお年寄りを若い女性が押して

歩いていました。

 

ところが、運悪く、そこには大きな段差があって女性は力が弱く、車いす

持ち上げられませんでした。

 

ひとりで困っている女性に気付いた彼女は、点滅していた青信号を、走って渡り

車いすを持ち上げるのを手伝いました。

 

彼女の手助けで、車いすはなんとか段差を乗り越えることができました。

 

その女性は助かりましたと彼女にお礼を言い、彼女は笑顔でお年寄りの手を

やさしく握りました。

 

私はこんな場面を見ると愛を感じ、とても感動する人間です。

 

私はそのとき、いつも悪魔のように見えた彼女の顔が、天使のように見えました。

彼女の笑顔はとても優しくて、私は、この世の中には悪い人はいないと思いました。

 

同僚が彼女のことを親切でいい人だと言っていた理由がわかりました。

私は感動し、これなら彼女とうまくやっていけるという予感がしました。

 

私にも大いに問題があったと思います、実は、私の仕事があまりにも遅いので、

私を鍛えるために彼女は仕事を振ってきたのです。

 

彼女を愛する気持ちが欠けていたのです、彼女の愛のムチに気付きませんでした。

そして、彼女の嫌な面ばかりを見ていた自分を反省しました。

 

それからは私は彼女のいい面を見るようにしました、すると私の気持ちが通じ

たんです、彼女の態度が変わってきました。

 

(実際は彼女は変わっていないのですが、私の気持ちが変わったのでそう思った

のかもしれません。)

 

私は彼女を受け入れることができるようになりました。

人を嫌いになるのは自分にも大きな原因があることがわかりました。

 

どんなに嫌だと思っても、人を愛する気持ちを忘れてはいけませんね。