遺品の整理

 

私は先日、百貨店に買い物に行きました。

 

お客がいつもより大変多く、駐車場も駐車待ちのクルマでいっぱいでした。

この店は、もうすぐ店じまいをするようで、閉店セールをしていました。

 

食品の階に行くと、生鮮食品は充実した品ぞろえでしたが、日持ちする商品は

すでに棚が半分以上空いていました。

 

その棚には2~5割引きの表示された商品が歯抜けのように並んでいました。

それから衣料品や雑貨の階に行くと、値下げ品がワゴンに集められ、

 

最初はよく売れたようですが、残っている商品を見ると、あまり欲しいような

商品はなくて、更なる値引きをしないと売れないと思いました。

 

まだ大量の在庫が残っていて、店員さんは必死に売り込んでいました。

閉店するまでにほとんど売ってしまわないと、後片付けが大変だと思いました。

 

閉店セールを見て私は思い出しました、以前、同じ支店で働いていた私の上司が

病気で亡くなり、彼の奥様は遺品の整理が大変だと困っていました。

 

上司の彼が趣味で集めたものなどがたくさんあり、処分することなく亡くなった

ので、その多さにお手上げでした。

 

その遺品には彼の気持ちが入っていた物がたくさんあり、奥様はどれを遺して

どれを処分していいのか迷ったようです。

 

百貨店のように値引きしてお客に買ってもらうようにはいきませんでした。

遺品の価値は亡くなった彼にしかわかりません。

 

親族に遺品を見てもらっても、いつも彼と一緒に暮らしていなかったので、

遺品に対する彼の気持ちの入れ方がわかりませんでした。

 

四十九日の法要が終わり、業者に依頼して、遺品の処分をすることにしました。

私は、昔からの親友で、愛を持って仕事をしている適任者を奥様に紹介しました。

 

遺品の処分にきた私の親友は、「捨てないで遺して置くものはないですか」と

奥様に聞きました。

 

彼女は、「私はどれもこれも遺してあげたくてとても困っています、主人が

遺してきた物を処分するには忍びないんです」と申し訳なさそうに言いました。

 

彼女は遺品をひとつひとつ手に取ってどれを遺してあげようかと悩みました。

そのうち彼女は、彼の生きていた頃のことを思い出し、涙が出てきました。

 

手にしたものは、ふたりで旅行した時ふたりでいいねと言って買った、幸福を招く

ふくろうの置物、ふたりの思い出が詰まった記念の品物でした。

 

ほかにも彼が大切にしていた物がたくさんありました。

 

彼女は天に向かって、あなたが遺してほしいものは何なの、と尋ねました。

しかし、いくら好きでも彼は今ではあの世の人、彼女の声は遠くて届きませんでした。

 

どうして私を残してそんな遠くに行ってしまったのと彼女は涙が止まりません。

 

親友は彼女に、「あなたはご主人をとても愛していたようですね、その愛が

強ければ強いほど、遺品を捨てることには抵抗があるでしょう」と言いました。

 

彼女は、「そうなんです、だから私は夫の遺品を捨てられないのです」と

涙ながらに答えました。

 

するとその親友は彼女に、「どれを遺すのかは迷っても、絶対処分して

いけないのは、あなたがご主人を愛するこころです、これを遺せばきっと

 

ご主人は喜んでくれるはずです」と助言しました。

 

さすが遺品の処分を仕事にしてきた親友はお客のこころを理解していますね。

私は親友の彼を紹介した甲斐があったと思いました。

 

彼女は夫婦ふたりが一番しあわせそうな笑顔で写った写真だけ遺し、

他はすべて処分しました。

 

彼女は私に、いい人を紹介してくれたと言って、喜んでくれました。

彼女も親友も私もみんなとてもいい気持ちになりました。

 

彼女はスッキリとした部屋を見てもこころ残りはありませんでした。

彼女にとっての一番の遺品はご主人を愛するこころだったのです。

 

彼女のこころの部屋には、いつまでも、大好きだった彼は生き続けています。