ご飯が美味しく食べられるしあわせ

 

私は慌て者なので、焦って失敗したことが何度もあります。

 

予定の時間までに仕事を終えようとしていても、何かのトラブルで、

予想以上に時間がかかってしまうことがあります。

 

私はそれを取り戻そうとして慌てて、ますます時間がかかってしまい、

パニックになることがあります。

 

先日、お客さんからクレームがあり、お詫びのために、約束の時間にお客さん宅を

訪問することがありました。

 

私は事前にお客さんの家を地図で確かめて、時間に余裕を持って会社を出ました。

 

その時は既に日が暮れて真っ暗で、不慣れな夜の家探しだったので、

地図で見るのと実際の場所はまったく違って見えました。

   

先のよく見えない暗い中で、私はとても不安な気持ちになりました。

そのうち私は、自分がどこにいるのかわからなくなり、道に迷ってしまいました。

 

暗い夜道をひとりで迷い、約束した時間に目的地に辿り着けなくなりそうで

慌てた私ですが、人生でも同じように迷うことがあります。

 

しあわせという明確な目的地がありますが、私はそこに辿り着くのに迷路の

ような道を通ってしまうんです。

 

真っすぐ行けば、辿り着けるしあわせがあっても気がつかないんです。

目の前には障害物がたくさんあって、それに気を取られて、先が見えないんです。

 

話しは変わりますが、ある時、私は家の近所をウォーキングしました。

そこにはいつも家の前の道を掃き掃除しているお婆さんがいました。

 

このお婆さんは以前、町内会の掃除の時一緒に草むしりをしたことがあり

彼女のことはよく知っています。

 

私は人生の大先輩である彼女に、私の先の見えない人生の不安について話しました。

 

すると彼女も少し若い頃は先の見えない人生に不安を感じた時もあったそうです。

彼女はお金持ちを見るとその暮らしぶりに、羨ましくて嫉妬したそうです。

 

自分の生き方に満たされないこころの彼女は、人のしあわせを素直に喜ぶことが

できなかったそうです。

 

彼女は辛い人生から逃れるためにはお金がたくさんあればいいと思い、

何かお金持ちになれる方法はないかと考えたようです。

 

その結果、彼女は強欲となり、しあわせを求め、人に相談すれば誰もが止める

ような儲け話に騙され、貯金の大半を失ってしまったそうです。

 

彼女は大儲けしてしあわせになるどころか、貧乏のどん底に転落してしまいました。

先の見えない未来に希望の光を求めても、思うようにはならないと気付きました。

 

彼女はそれから生き方を変えたそうです。

 

私利私欲に走ればキリがありません、そんな人が歳を取れば、まだまだ生きたい

もっとしあわせが欲しいと言って未練が残り、やがて来る死を恐れるでしょう。

 

人はいつかは死ぬもの、彼女は見えない先のことを心配するのではなく、

今を大切にして、まわりのすべての事に感謝しているようです。

 

彼女は今、毎日掃き掃除をしながら、貧しくても今日を生きることが

できるなら、それだけでしあわせだと思っているそうです。

 

そう言って、彼女はポケットから100円玉を1枚取り出して私に見せました。

 

彼女は毎日、今日も無事生きることができたと感謝して、それを貯金箱に

入れるそうです。

 

そして、1か月に一度、貯まった貯金を取り出して、友達を誘ってスーパー銭湯

行って、お風呂に入ってご飯を美味しく食べることが最高のしあわせだそうです。

 

彼女は私に言いました。

 

あなたは何を焦って先のことを心配しているの、今を大切にして感謝して

人を愛しなさい。

 

あなたの人生はまだまだ長い、楽しく生きなきゃ損よ。

 

暗い夜道で迷ったら、慌てないで立ちどまりなさい、そして周りの人に

道を聞きなさい。

 

暗くて見えなくても、あなたの周りには親切な人がたくさんいるのよ。

あなたに道を教えてくれる人にこころから感謝しなさい。

 

そしてあなたもご飯が美味しく食べられるしあわせを味わいなさい。

 

そう言って彼女は、私の手のひらに100円玉を乗せて、彼女の両手で

包み込むようにしっかりと握りました。

 

私はそのとき、愛情たっぷりの彼女の手のぬくもりを感じました。

 

私は彼女の言っている意味がわかりました。

 

しあわせってこころのなかにあるんですね、私が生きているかぎり。

今を大切にして感謝するしあわせがあるからご飯が美味しく食べられるんですね。

 

私はそのとき、彼女から人生の奥深さを教えてもらってとても嬉しく思いました。