愛の代筆

 

この前の休みの日に、恋愛ドラマを見ていると、昔の思い出が蘇ってきました。

その懐かしい記憶を辿ってブログを書いてみました。

 

もう随分前のことで、私が大学生の時のことです。

 

私は文系の学部だったので、理系とちがって自由な時間が多くあったような

気がします。

 

勿論、時間に関係なく勉強すればいいのですが、私の場合、学生である自分の

ことを忘れて、遊び人になってしまうことがよくありました。

 

そして、試験が近づくと、急に目覚めて、学生に戻ったものでした。

私には同級生の友達がたくさんいました。

 

さぼって授業に出ていない講義内容のノートをみんなでコピーし、試験の前には

助け合いました。

 

大学で一番学んだことは、この助け合いの精神だったのかもしれません。

 

話しは変わりますが、私が大学に入学してからすぐに、とても親しい

友達ができました。

 

その友達は遠方の高校を卒業し、自宅から通えないのでアパート住まいでした。

 

私はよく彼のアパートに遊びに行き、泊まり込んで、朝方まで人生について

真剣に語り合ったものです。

 

そんな彼ですが、3年生になったばかりのころ、彼女ができました。

ふたりは、気が合ったようで、彼のアパートで同棲することになりました。

 

私は遠慮して、それまでのように気軽に彼の部屋に遊びに行くことは

なくなりましたが、時どき、彼らの部屋に招かれてご飯をごちそうになる

 

ことがありました。

 

彼女の作る手料理は家庭の味がして、とても美味しかった記憶があります。

ベランダにはふたりの洗濯物が干してあり、家庭のしあわせを感じました。

 

3人での食事はとても楽しく、彼も彼女も、私を家族のように大切にしてくれました。

彼女は彼より1歳年上で、学生ではなく社会人で、しっかりしていました。

 

私は彼女の優しくて、明るく、気さくな性格が気に入って、彼女と同棲している

彼が羨ましくてたまりませんでした。

 

もし彼がいなかったら、きっと、私は彼女のことを好きになっていたでしょう。

 

それから数か月後、彼が深刻そうな顔をして、私に相談があると言って来ました。

私が何かと聞くと、どうやら彼は彼女に逃げられてしまったようです。

 

理由を聞くと、社会人の彼女の収入を当てにして、遊び過ぎたのが原因だった

ようでした。

 

彼女は、自分は頑張って働いているのに、真面目に勉強もしないで遊んでばかりいる

彼に愛想をつかしたようです。

 

彼は私に、「お前は彼女とは何度も会っていて、面識があるから、彼女がなんとか

俺のところに戻ってくるように手紙を書いて欲しい」と頼みました。

 

私は落ち込んでいる親友を見捨てることはできませんでした。

 

その頃にはまだブログというものはありませんでしたが、ブログを書くのと

同じようにこころを込めて彼女に手紙を書きました。

 

私は手紙に、彼の人間としての魅力を余すところなく表現しました。

そして同様に、私が思う、彼女の素晴らしさをこころを込めて書きました。

 

そして、私は彼に対して、男女の愛を越えた、人間としての愛を持っているので

悲しんで落ち込んでいる彼を何とか助けてあげたいと伝えました。

 

ふたりがしあわせになることが私にとってもしあわせなのです。

お願いです、私の熱いこころを感じ取って下さい。

 

私は最大限の情熱を持って、彼女に私の想いを伝え、彼の元に戻ってくるように

お願いしました。

 

彼は私が書いた手紙を送る前に読んで、これはまるで彼女へのラブレターだなと

苦笑いをしました。

 

しばらくして、彼女から私のところへ手紙の返事が届きました。

 

「彼の親友のあなたへ・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、私はもう彼の

ところには戻れません。でも、あなたのお手紙を読んで感動しました。・・・・

私は愛情あふれるあなたが好きになりました・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

私はまさかこんな結果になるとは思いませんでした。

 

私は彼女とは付き合うことはできません、彼女を愛することは親友である彼を

裏切ることになります。

 

私は彼を人間として愛したのです。

私にとって、人間としての愛は彼女への愛よりも強いのです。

 

私は彼に黙ってこの手紙を破りました。