人生の試験

 

私にはスーパーに10年勤める友人がいます。

 

彼はその前に証券会社に10年以上勤めていましたが、家庭の事情で故郷に戻り

地元のスーパーに再就職した人生のベテランです。

 

私は彼に久しぶりに会って、コメダ珈琲でランチをしながら話をしました。

 

私はサンドイッチとコーヒー、彼はみそカツパンとコーヒー、そしてふたりで

シロノワールをひとつ注文しました。

 

ここの食べ物は結構ボリュームがあってお腹は満腹でした。

しかし、彼のこころは満たされていないようで、私に仕事の愚痴を話しました。

 

彼の会社では、従業員全員の接客技術の向上を目指して、従業員の接客技術の

レベル認定の試験を行うこととなったようです。

 

彼のようなベテランも新人も勤務年数に関係なく研修を受け、接客技術が

一定レベルに達するまで、何度も試験を受けて合格しなければならないようでした。

 

彼の所属するお店に、入社3年目の本社人事部の女子社員が来ました。

 

彼女は従業員を集めて研修をし、その後、別の日にまたお店に来て一人ずつ

順番に試験をしました。

 

笑顔ができているかどうか、目線がお客に合っているかどうか、声がはっきり

聞こえるかなどの多くの項目をチェックして合格・不合格を決めるようでした。

 

若い彼女は顔は可愛いのですが、こころはとても厳しいようでした。

 

彼はこういう試験はバカらしく思い、手を抜いて試験を受けたので不合格

だったようです。

 

彼はどうしてあんな入社して3年目の小娘に試験をされなくてはいけないのかと

腹を立てていたようです。

 

そして彼は、自分は彼女よりも勤務年数は長いし、人生経験もはるかに長いので

お客の気持ちに深く入れば、お客のこころは掴めると思っていました。

 

さらに彼は苦情を言ってきたお客でも、うまく対応して、常連客に変えて

しまうだけの接客技術はあると接客には自信があるようでした。

 

マニュアルどおりの接客は苦手だけど、こころを込めて接客すればお客も

おなじ人間、きっと喜んでくれるはずだと思っていました。

 

しかしその後も、彼女は彼に厳しく指導し、試験を受けさせましたが不合格でした。

 

彼の試験を見ていた同僚にどうだったか聞いてみると、「あなたの接客技術は

とてもすばらしい、不合格になるなんておかしい」と言ってくれたそうです。

 

彼は彼女に、「いったいどこがいけなくて不合格なのか」と聞いてみました。

 

すると彼女は、「あなたがいけないのは接客技術ではなく、人生に手を抜いている

からです。

 

あなたは確かに接客技術のレベルは合格です、でも、現状に満足して向上心の

ないあなたのことを考えると合格点は上げられません。

 

むしろ、あなたよりレベルが低くて少し点数が足りなくても、熱意があれば

それを加算して合格点をあげます。」と答えました。

 

彼は彼女のことを甘くみていたようです、そのように言われると彼は何も

言えなかったそうです。

 

彼女の指導をまじめに受けていない彼に注意喚起したんですね。

彼女は接客技術だけではなく、人の生き方まで試験していたのです。

 

なので彼女はこれからの彼の人生を考えると、合格点を与えることは

できなかったのです。

 

私は彼の話を聞いて彼女はなんて愛のある人だと思いました。

 

私は彼女のような人が人事部にいる限り、きっと、この会社は立派になる

だろうと確信しました。

 

人はいくら歳を取っても、社歴が長くても、手を抜くことなく誠実で一生懸命に

生きなければならないと私は思いました。

 

それがしあわせな人生への道筋なんですね。

 

彼女は若くても、彼よりもしっかり生きているようです。