お星さまにお願い

 

私の知人は、いつも忙しそうで、時間が足りないと言っていました。

彼は仕事が大好きで、家庭を顧みず、早朝から深夜まで働きました。

 

営業成績が会社でトップクラスの彼は、働けば働くほど成績が上がり、

仕事にとてもやりがいを持っていました。

 

家にはただ寝に帰るだけで、家族との会話がほとんどありませんでした。

彼の奥さんは、うちの家庭はまるで母子家庭のようだと嘆いていました。

 

彼の仕事の休みの日は、仕事の疲れを取るためにお昼すぎまで眠っているので

家族で一緒に外出することはめったにありませんでした。

 

彼が家族サービスをしないので、彼の奥さんは6歳になる仁美(ひとみ)ちゃんという

女の子を連れて、ふたりで遊園地に行ったりショッピングに行きました。

 

彼は目が覚めるといつもひとりでお留守番でした。

 

彼は用意してあったお昼ご飯をひとりで食べて、忙しくて訪問できなかった

お客のところに、約束した時間に合わせて出かけます。

 

営業のつらいことは、お客の都合に合わせるので、休みの日でも

仕事が入ることがよくあります。

 

お客との打ち合わせが長引き、家に帰ると、仁美ちゃんは先にご飯を食べて

寝ていることもありました。

 

奥さんは、せめて休みの日くらい、仁美ちゃんと遊んで欲しいと思いました。

 

仕事の時は朝が早いので、彼が朝食をとる時間にはまだ仁美ちゃんは眠って

います。

 

帰宅は深夜になるので、用意してあったご飯をひとりで食べます。

 

そんな母子家庭のようなふたりですが、七夕が近づき、彼のいないふたりだけの

夕食の時、彼の奥さんは寂しそうな仁美ちゃんに七夕のお話をしてあげました。

 

むかし、はた織りが上手な神様の娘おり姫と、働き者の牛飼いであるひこ星は、神様の

引き合わせで結婚し、仲良く過ごしましたが、楽しさのあまり、仕事をしなくなり、

 

遊んでばかりのふたりを神様は激怒し、ふたりを天の川の両側に引き離し、

ふたりが1年に1度だけ七夕に会うことを許しました。

 

これを聞いて仁美ちゃんは、「私がおり姫なら、パパはひこ星なのね」と言いました。

仁美ちゃんは、めったにしか話をしてくれない父親に、寂しさを込めた言葉でした。

 

家族3人で一緒に遊園地に行ったのは3か月前が最後で、それ以来、1度もみんなで

外出することはありませんでした。

 

仁美ちゃんはその時のことがとても楽しくて、もっとパパが一緒に遊んで

くれればいいのになと思いました。

 

七夕の日、彼は早く起きてきた仁美ちゃんに「今日は七夕だね、欲しいものが

あったら短冊に書いておきなさい、パパがお願いを叶えてあげるから」と言って

 

仕事に出かけました。

 

仁美ちゃんは、彼が仕事に行っている間に、一番欲しいものを短冊に書きました。

 

その日の夜、彼はたまたま、夜の仕事がキャンセルになり、久しぶりに

早く家に帰ることになりました。

 

彼は仕事の帰りに、仁美ちゃんの大好物のイチゴのショートケーキを

おみやげに買って帰りました。

 

家に帰ると仁美ちゃんがお帰りなさいと大喜びで出迎えてくれました。

 

彼は仁美ちゃんに、「仁美ちゃんが一番好きなイチゴのショートケーキを

買ってきたよ」と言って渡しました。

 

すると仁美ちゃんは、「私が一番好きなのはショートケーキじゃない」と言いました。

 

玄関には笹飾りが置かれ、仁美ちゃんが七夕飾りの短冊にお願いを書いていました。

 

「お星さまお願いです、大好きなパパが早く帰って、一緒にご飯を食べることが

できるようにしてください」と書かれていました。

 

彼が早く帰ってきたので仁美ちゃんは、お星さまが私のお願いを叶えてくれたと

大喜びをしました。

 

いままで彼は自分の娘がこんなに自分のことを愛しているのに気がつきませんでした。

彼は一生懸命に仕事をしてお金を稼ぐことが家族のしあわせだと思っていました。

 

その喜ぶ我が子の姿を見て、彼は深く反省し、仁美ちゃんをもっともっとかわいがって

あげようと心底思いました。

 

それから彼の家庭は、寂しい2人家族から楽しい3人家族に変わりました。

 

いくら仕事が好きでも、家族を大切にしないといけませんね。

本当のしあわせは家庭にあるのかもしれません。