こころに輝く一番星

 

今回はとても仲が良かった家族のお話です。

 

その家族は若い両親と幼稚園児の女の子の3人でした。

女の子の名前は静香と言い、父親が大好きな甘えん坊でした。

 

父親は長距離トラックの運転手の仕事をしていました。

彼は人と話をするのが苦手で、接客業には向いていませんでした。

 

ひとりでトラックを運転し、きちんと時間通りに荷物を届けることで世の中の

役に立つ仕事は、彼の性格に合っていたようでした。

 

そんな彼ですが、荷物を運ぶ途中の何度かの休憩の時に、天気のいい夜には空に

輝くきれいな星を眺めました。

 

星を見ながら彼は、静香ちゃんはもうぐっすり寝ているかなと思いながら

温かいコーヒーを飲んで、娘の寝顔を思い浮かべました。

 

彼の仕事の休みにはいつも静香ちゃんと遊んでいました。

人付き合いの苦手な彼は、静香ちゃんと遊んでいる時間が一番しあわせでした。

 

静香ちゃんは父親とおままごとをするのが大好きで、いつも彼にハンバーグと

目玉焼きを作ってあげました。

 

静香ちゃんはそんな時、「パパ、私が大きくなったら私はパパのお嫁さんになって

もっともっと美味しいごちそうを作ってあげるね」と言っていました。

 

それからある日、彼の仕事が休みの日に、3人でドライブをした時のことでした。

少し帰りが遅くなり、日が暮れて夜になりました。

 

その日はお天気がよく、空にはたくさんの星が輝いていました。

3人はクルマから降りて、しばらく星の輝く夜空を見ることにしました。

 

父親は静香ちゃんに、「人は死んだらあのお星さまになるんだよ」と言いました。

 

彼は一番星を指さし、「見てごらん、あの一番明るいお星さまを、あれはきっと

静香ちゃんが大好きだったおじいちゃんだよ、静香ちゃんの大好きな気持ちが

 

おじいちゃんに伝わって明るく見えるんだよ」と言いました。

静香ちゃんは明るい星は大好きだった人だと父親から教えられたのでした。

 

それからしばらくしてこの家族に不幸が訪れました。

 

父親が仕事で荷物を運んでいましたが渋滞で時間が遅れ、休憩なしで運転を

続けたため、居眠り運転をしてしまい大事故を起こし、帰らぬ人となりました。

 

大好きだった父親を亡くした静香ちゃんは、おままごとのお料理セットを

見るたびに、一緒に楽しく遊んだ時のことを思い出しました。

 

大きくなったらパパに美味しいお料理を作って食べさせてあげようと思ったのにと

いつまでも泣きました。

 

それから数か月が経ちました。

 

静香ちゃんは母親に、この前3人で一緒にお空の星を見たところに連れて行って

ほしいとお願いしました。

 

しばらくして母親は、お天気がよく星のよく見える夜に、静香ちゃんを連れて

思い出の場所に行きました。

 

静香ちゃんはたくさんある星からパパの星を探しましたがどれも同じようで、

明るく見えるはずのパパの星が見つかりませんでした。

 

静香ちゃんは、パパはもう私のことなんか忘れてしまったのね、お星さまに

なるなんて嘘だったのかと思いました。

 

静香ちゃんは母親に、「私はこんなにパパが大好きだったのに、どうしてパパは

私のために明るく輝いてくれないの」と言いました。

 

すると母親は「そうね、今夜は静香ちゃんのパパはいないようね、でも、

明日になったらきっとパパは見えるから楽しみにしてね」と言いました。

 

そしてふたりはお家に帰り、お風呂に入って早めに寝ました。

 

そして翌朝になりました、母親は暗いうちに静香ちゃんを起こしました。

母親は「これからパパの星が見えるから一緒に見ましょうね」と言いました。

 

静香ちゃんは眠い目をこすりながら空を見ていました、すると東の空から

まぶしい大きな星が見えてきました。

 

静香ちゃんは母親に、「これって太陽さんじゃないの」と言いました。

 

母親は「そうよ太陽さんよ、あなたの大好きなパパを想う熱い気持ちが伝わって

パパは明るく輝く太陽さんになったのよ」と言いました。

 

空に輝く太陽は、静香ちゃんにとって、すべての星を足し合わせたよりも

明るい一番星になりました。

 

それから静香ちゃんのこころにはいつまでも大好きなパパが生き続けました。

 

ふたりはまぶしい太陽を見ながら、元気だったパパのことを思い浮かべました。

 

きっとふたりはこれから、太陽の暖かい陽ざしを浴び、悲しみを乗り越えて

いくことでしょう。

 

その日は雲ひとつない、とても澄んだ青空でした。