不老不死の薬

 

もし、この世の中に不老不死の薬があったら、あなたは飲みますか?

 

むかしむかしあるところに寂しがり屋の少年がいました。

彼には大好きなお爺さんがいました。

 

ところがそのお爺さんは病気で死んでしまいました。

彼は大好きだったお爺さんが亡くなってとても悲しみました。

 

彼だけではなく、お爺さんと親しかった人はみんな悲しくて泣きました。

 

彼は、人が死んでしまうということは、とてもつらいお別れだと思いました。

彼はなんとか自分が死なない方法はないかと考えました。

 

すると風の便りに、この世には不老不死の薬があると聞きました。

 

彼は近くに住むお年寄りに、不老不死の薬があったら飲んでみたいかと

聞いてみました。

 

お年寄りは彼に、そんなものは飲みたくないと言いました。

 

彼は、長生きできるのにどうして飲みたくないのかと聞きました。

するとお年寄りは、そこにいるキジについて行きなさいと言いました。

 

山奥に仙人が住んでいるから、欲しければ、不老不死の薬をくれるはずだと

言いました。

 

そうすれば、私がなぜ不老不死の薬を飲みたくないか、わかると言いました。

 

彼はキジに連れられて仙人の住む山奥に行きました。

そこには白髭をはやしたひとりの老人がいました。

 

彼は仙人で、身が軽く空を飛んだり、水の上を歩いたり、座ったままで千里の向こう

まで見通せたり、火中に飛び込んでも焼けないなど素晴らしい能力を持っていました。

 

仙人の一番素晴らしいことは、不老不死の薬を飲んでいるので、死なないことでした。

彼は仙人に、ここには不老不死の薬があると聞いてやってきたと言いました。

 

仙人は、ここにその薬があるのを誰から聞いたか知らないが、確かに一粒だけ

不老不死の薬があると言いました。

 

仙人は彼に、この薬を飲むと決して楽しいことばかりではないが、その覚悟は

できているかと聞きました。

 

彼は、自分が死ぬことほど悲しいことはないので、その覚悟はできていると

答えました。

 

それを聞いて仙人は彼に不老不死の薬を渡し、彼はそれを飲みました。

 

彼は十分すぎるほどの時間をかけて、たくさんの親友を作り楽しく過ごしました。

そして数十年が経ちました。

 

彼がいつまでも若いのに、彼が作った親友は、年老いて寿命が尽き、次から次へと

死んでいきました。

 

彼は気付きました、自分だけが長生きしても、楽しいのは数十年だけ、

それからは、周りの親しい人が次から次へと死んでいくのを見届けることになり、

 

それはとてもつらいことでした。

 

親友を作れば作るほど、お別れの悲しみは増えました。

彼はこんなはずではなかったと思いました。

 

以前、お年寄りが不老不死の薬を飲みたくないと言った理由がわかりました。

 

彼は仙人のところへ戻り、自分だけが長生きしてもつらいことがわかりましたと

言いました。

 

彼はこれからどうしたらいいのでしょうかと仙人に聞きました。

 

すると仙人は、ここに不老不死を止める薬がある、これを飲みなさいと言いました。

彼は、それを飲むと自分は死んでしまうのですねと仙人に言いました。

 

仙人は、そうではない、たとえお前の肉体は死んでも、お前が人を深く愛せば、

お前は人のこころの中でいつまでも生き続けるのじゃと言いました。

 

仙人は彼に、永遠に長生きするよりも、人を愛して今を大切に生きなさいと

教えてくれました。

 

彼は、そのとき、天寿を全うするという言葉の意味を知りました。

 

彼は仙人からもらった薬を飲んで、寿命が来るまでの限られた時間の中で

多くの人を深く愛しました。

 

そして彼は死にましたが、彼は愛した人のこころの中で、子孫に受け継がれ、

今でも永遠に生き続けています。

 

実は、愛こそ彼が探していた、不老不死の薬だったのです。