愛のお釣り

一昨日、仕事がお休みだった私は、お天気が良かったので家の近くを

ウォーキングしました。

 

20分くらい歩いた時、お年寄りが私の方に向かって歩いてきました。

足取りが重く、ゆっくりとした歩き方でした。

 

彼はどこか具合が悪いように見えました。

すれ違う少し前に、そのお年寄りは地べたに腰を落としてしまいました。

 

じっと立ち上がらないので、私は彼に近づきどうしましたかと尋ねました。

すると彼は顔をあげ、辛くて情けないような複雑な表情で私を見上げました。

 

彼は近くのドラッグストアに行って、腰に貼る湿布を買って帰る途中、

急に腰に激痛が走り、立っていられなくなったようです。

 

ひとりでは歩けないほどの痛みで苦しんでいる彼を放っておくことは

できませんでした。

 

私は彼に、家はこの近くですかと聞くと、数十メートル先だというので

私は彼を支えて家まで連れて行きました。

 

家に着くと彼の奥さんが出てきて、私が事情を話すと家の中へと案内してくれました。

私は彼をソファーの上にゆっくり降ろしました。

 

彼は私にお礼を言いましたが、まだ痛みは取れていなかったようでした。

彼の奥さんは、彼が買ってきた腰の湿布を貼ってあげました。

 

私が帰ろうとすると、彼女はお茶でも出すから少し休んでいってくださいと

言いました。

 

私はお茶を飲みながら彼女と少しお話をしました。

 

腰を痛めている彼は、現役時代に仕事を転々とし、収入が少なかったせいで

年金が少なく、65歳まで働いたようです。

 

その頃彼は大きな病気をし、それからは働けなくなったようです。

蓄えていたお金もその時の入院費で大きく減り、少ない年金で暮らしているそうです。

 

本当は彼は、病院に行って治療すれば楽になるのでしょうが、お金がないので

湿布を買ってそれを貼って我慢しているとの事でした。

 

食費もできるだけ節約してなんとか生活しているようです。

 

彼女はこれからふたりが病気をしたり介護されるようになるとお金がかかるので

どうしようかと、とても心配していると言いました。

 

私はそれを聞いて私の将来も不安になりました。

 

私は給料が少なくても、贅沢をしなければ何とかやっていけると思っていましたが、

このふたりの暮らしぶりを見て、楽観的に考えていてはいけないと思いました。

 

いざという時に備えて、生活を見直さなければならないと思いました。

 

私はそろそろお邪魔しますと言って帰ろうとすると、彼はゆっくり起き上がり、

私からのお礼だと言って、先ほど買ってきた湿布の残りを私にあげると言いました。

 

私は今腰が痛くないから結構ですと言いました。

 

ところが彼は、今私が一番大切で必要なものはこの湿布です、私は貧しくて

あなたにお礼にあげるものはほかにありません。

 

私の一番大切なものをあなたにあげたいのです、それが私ができるただ一つの

恩返しですと言いました。

 

今、彼にとって一番大切なものが湿布なのです。

私は彼の気持ちが痛いほどわかりました。

 

私は彼からその気持ちをしっかりいただきました。

 

私は湿布はいりません、今あなたからこんなに大きな愛をいただき、私はあなたに

お釣りを返さなければなりませんと言いました。

 

それから私は近くのドラッグストアに行き、たくさんの湿布を買って

彼に大きな愛のお釣りとして渡しました。

 

愛が私のこころを動かし、彼に愛のお釣りをお返ししてしまったのです。

私は愛こそ人生の宝物だと思いました。

 

私は先ほど、将来が不安だと書きましたが、もしかしたらお金がなくても

愛があれば幸せに生きていけるかもしれません