こころの物差し

 

この春に、ふたりの男女が私の職場に新しく入って来ました。

ひとりは20歳の女性社員で他の支店から異動で入って来ました。

 

もうひとりは60歳の男性で、定年退職後、年金だけでは生活できないので

アルバイトで入社してきました。

 

彼と彼女のふたりは年齢が離れているせいかあまり話をすることはありませんでした。

私はふたりとの間の年齢なのでふたりとはよく話をします。

 

若い彼女は多くの先輩の下で働くので、仕事に慣れていても、多くの先輩に

気を遣い、こころに余裕がないようでした。

 

私の若い頃を思い出すと、先輩の目を気にして、とにかく身体を動かし、

彼女と同じようにがむしゃらに仕事をしていたと思います。

 

年配の彼は、入社したばかりで仕事には慣れていませんが、人生の大先輩であり、

仕事が遅くても、きちんと仕事をしてもらえればいいと思っていました。

 

私がそれぞれふたりに仕事の指示をすると、彼女は私の言ったことをすぐ理解して

思った通りの仕事をしてくれます。

 

一方彼は、私が教えたことを時間をかけてでもきちんとやってほしいのですが、

なかなか思うようにできなくて、早く済ませようとして手を抜いてしまいます。

 

私が注意するといつも言い訳をして反省がありませんでした。

決して無理はせず、自分のペースで働き、身体は動かないが口だけはよく動きました。

 

彼は、少し仕事がきついと、歳を取ると若い頃のように体が動かないし、すぐ疲れると

言ってみんなの同情を買います。

 

私は彼に、なんども仕事の取り組み方を教えましたが、年下の私が細かく指示を

するのが嫌になったのかすぐに会社をやめてしまいました。

 

人は歳を取るとやる気も体力も衰えてしまうんだなと情けなく思いました。

私もそのうちあんなふうになるのかと思うと、とても暗い気持ちになりました。

 

その後、彼の代わりに別の男性が入社してきました。

その人は、少し若く見えましたが65歳の男性でした。

 

今までいた男性よりも5歳も年上で、私はもう勘弁してよと思いました。

どうせ私のことは聞いてもくれないし、すぐやめてしまうだろうと思いました。

 

ところが実際、一緒に働いてみると、思っていたのとは違って、前にいた男性よりも

元気でとても生き生きと働くのです。

 

彼は私が教えたことをよく理解してくれて、気持ちよく働きました。

仕事は若い人ほど早くはありませんが、私の教えた通りきちんとていねいにしました。

 

同じ部署の人が器用にこなしている仕事を見て、あのように自分もやってみたいと

言って、気持ちが若く好奇心と向上心があふれる彼でした。

 

そして彼は、なぜか20歳の彼女と話しがよく合うんです。

 

仕事中、彼は彼女に話しかけることがありますが、微妙な乙女ごころを

理解して、彼女のこころを惹きつけました。

 

彼女は緊張した仕事の中でも、彼が存在することで、こころが安らぎ、彼との

会話には笑顔が見えました。

 

私は彼に、どうしてそんなに年が違うのに彼女の気持ちを理解できるのかと

聞いてみました。

 

彼は熟年離婚をし、そのとき自分の身勝手さに気づき、こころから反省し、

若い頃の純真な自分に戻ろうと決めたようです。

 

彼は、若さを保つために、毎日ジョギングを欠かさないことと、恥ずかしながら

この年でブログを書いていると言いました。

 

ジョギングは身体の健康を維持するのに役立ち、ブログは読み書きすることで

共感が生まれ、感動で胸が震え、こころを若返らせると言いました。

 

私は彼がブログを読むことで老若男女問わず、人の気持ちを理解できるように

なったに違いないと思いました。

 

なので彼女のこころを読んで、彼女のこころに熱い気持ちで飛び込めば共感が

生まれるはずです。

 

私はそれを聞いて、こころとは年齢で測るのではなく、その熱さで測るものだと

思いました。

 

同じブログを書く私は、彼に共感しました。

そして私と彼とは、これから長い付き合いになるだろうと予感しました。