こころのお掃除

 

香織が目覚めると、外はとてもいいお天気でした。

カーテンを開けると、まぶしい陽の光が差し込んできました。

 

香織は両手を上に大きく開き、背伸びをして、大きなあくびをしました。

そして窓を開けるとさわやかな風が、香織に、こころのお掃除をしようと誘いました。

 

香織は最近こころのお掃除をしていなかったのに気付きました。

香織のこころの中には、お家と同じように小さなお部屋がありました。

 

さっそくこころのお部屋のお掃除です。

 

まずは冷蔵庫です、冷凍室には彼氏に裏切られて凍ったこころがありました。

こんなもの、いつまでも保存しないで、溶かして水に流してあげましょう。

 

冷蔵室には結婚したいという未練のこころがあります、そんなものとっくに

賞味期限が切れています、惜しまずさっさと廃棄しましょう。

 

次は洗濯機のお掃除です。

 

汚れたこころを、清楚な洋服を着て隠している香織は、しっかり汚れの染みついた

洋服を洗う度に、洗濯機が汚れて真っ黒です。

 

お掃除が大変だった香織は、洗濯の前に漂白剤でこころの汚れを落としましたが、

強すぎて、大切なこころ模様まで消えてしまいました。

 

お風呂のお掃除は大変です。

 

身の毛もよだつほど嫌いな会社の同僚にいつもいじめられていた香織は

そのこころの抜け毛の多さでいつも排水口が詰まっていました。

 

こころの育毛剤を使う前に、排水口の汚さを毛嫌いしないで、きちんと

お掃除しないといけません。

 

お風呂の出入り口の扉は入念にきれいにしましょう。

 

香織のありのままの姿を見られないように隠してくれる大切な扉です。

ありのままのこころを見られたら、恥ずかしくて香織は世間に顔向けできません。

 

それからキッチンです。

 

まな板が傷だらけで、洗っても洗っても汚れがきれいに落ちません。

香織のこころも傷ついていてなかなか治りません。

 

香織は知っています、傷ついたこころには、やさしくしてくれる人がいれば

治るのです。

 

彼女はこころを込めて包丁を砥いで、切れやすくしました。

 

よく切れる包丁は力を入れなくても、まな板を傷つけず、やさしくお肉が

切れるのです。

 

でも、よく切れる包丁は、人のこころもズタズタに、みじん切りにするので

気をつけましょう。

 

やさしさに飢えている香織は、よく切れる包丁で、肉を切らせて骨を断つような

傷つけ合う人生には疲れたようです。

 

次は洋服ダンスです。

 

汚れたままハンガーにかけられた香織のこころは虫食いだらけ。

防虫剤は効き目がなくならないうちに取り換えましょぅ。

 

でも、こころで感じる、かんの虫、腹の虫は防虫剤では防げません。

それでも香織の虫の居所が悪い時には有効かもしれません。

 

季節変りには、春物は片づけて、夏物を取り出し、中をきれいにお掃除です。

でも、自分のこころを入れ替えられない香織は、季節に関係なく、着たきり雀です。

 

そして最後はトイレのお掃除です。

 

香織のこころと同じで、掃除しないとすぐ汚れます。

 

こびりついたトイレの汚れは塩素の強い洗剤で落としますが、

優柔不断な香織のこころと同じで、取り扱いがとても難しいのです。

 

そして、都合の悪いことはすぐに隠してしまう香織は、臭いものにはふたをする

ように、消臭剤で念入りにこころの臭いにふたをしました。

 

さてこれでお掃除が終わりました。

 

お掃除が終わってこころがすっきりするはずなのですが、香織のこころはなにか、

やり残したことがあるような気がしました。

 

不完全燃焼のこころのまま香織は、押し入れから出てきたゴミを捨てようとしました。

するとその中からきらりと輝くものが見えました。

 

香織は何かと思って取り出してみると、それはなんと愛でした。

香織は愛を押し入れの奥にしまい込んだまますっかり忘れていました。

 

なくしてしまったと思った愛が見つかり、香織は大喜びでした。

香織のこころは愛によって完全燃焼となりました。

 

香織はこころのお掃除をすることで、大切な愛を見つけることができたのです。

そして香織のこころは、お掃除で、きれいに入れ替わりました。

 

こころのお掃除はこまめにしないといけませんね。