田舎の道路

 

私は先日、1泊2日で都会に出張しました。

田舎暮らしの私には久しぶりの都会への出張でした。

 

仕事は順調に進み、2日目のお昼過ぎには終わりました。

時間に余裕ができたため、都会の街中を歩いてみました。

 

銀行に用事があったので探してみると、道路の向こう側に目的の銀行が見えました。

その道路は片側3車線の広い道路でしたが横断歩道が近くにありませんでした。

 

目の前に銀行があるのにどうやって行けばいいのだろうかと悩みました。

歩き行く人の流れの中、田舎者丸出しで立ち止まって周りをキョロキョロしました。

 

都会の人はみんな忙しそうなので人に聞くのは躊躇しました。

すると目の前に地下道の入り口が見つかりました。

 

私は階段を下りて地下道に行きましたが、そこにはたくさんのお店が並んでいて

どれもオシャレなお店ばかりでした。

 

とても私が入るようなお店ではないと思い、横目で見ながら通り過ぎました。

 

私は地下道を通って銀行にたどり着きましたが、私はびっくりしました。

 

銀行に入ると、まず、文房具や食器など、地域のこだわりの商品をセレクトした

お店があり、中央にはカフェがあり、壁側にATMがあるだけで、最初、ここが銀行

 

だとは思えませんでした。

 

私はATMで用を済ませましたが、通常の窓口業務は2階にあるようでした。

田舎者の私にとっては、まったく別の世界に入ったようで落ち着きませんでした。

 

警備の人に、ここは田舎者が来るところではないと言われないかと心配しました。

それから電車に乗って百貨店に行きました。

 

私が住んでいるところは、クマやマムシにご注意の看板が立っているような田舎で、

百貨店に行くのは久しぶりでした。

 

エスカレーターで売り場を眺めながら上の階へと上っていきました。

すると上のほうの階に紳士服売り場がありました。

 

私は何も買うつもりはありませんでしたが、スーツ売り場を見ていると

 

若くてきれいなお姉さまが、「いらっしゃいませ、お仕事帰りですか?・・・・」と

やさしく親しそうに声をかけてきました。

 

私のような田舎者にとっては、どんな高級なスーツよりも、彼女の声かけのほうが

よほど素晴らしく思えました。

 

何年も前に買った安物のよれよれのスーツを着た私に、ひとりのお客として声を

かけてくれたことが嬉しかったのです。

 

結局私はスーツを買いませんでしたが、都会の洗練された接客に危うく買わされる

ところでした。

 

そろそろ夕方になりました。

早くしないと私の大嫌いなラッシュの時間になります。

 

その日の朝は、あのラッシュの速足で歩く人たちに、邪魔だ早く歩けと押し倒され

そうになりました。

 

田舎はそんなに急がなくてもゆっくり歩けるのです。

 

都会でラッシュ時にゆっくり歩くと、乗降客で駅が溢れてしまうので

仕方なく速く歩かされるのなら、それはかわいそうなことですね。

 

こうやって私の出張は終わり、家に帰ってほっとしました。

 

そして出張の翌日のことです。

 

私の会社は駐車場が少し離れたところにあり、会社に行くまでには道路を渡って

いかなければなりません。

 

その道路はクルマの交通量は少ないほうで、都会と違って道幅が狭く、

まっすぐで見通しのいい道路です。

 

しかし横断歩道が50mほど離れているのでそこまで歩くと時間がかかるので

みんなそのまま横断歩道を無視して直進して渡ります。

 

都会と違って、地下道や横断歩道がなくても渡れます。

 

私が出勤時にそこに差し掛かった時、私の会社の女性社員がその道路を渡ろうと

待っていました。

 

私は彼女に気付き、ゆっくり停車して、どうぞ渡って下さいと合図しました。

 

すると彼女は笑顔で頭を下げ、私に手を振ってクルマの前を横断しました。

私は朝からとても気持ちがよく感じました。

 

その後職場で出会い、彼女は、さっきはありがとうございました、あなたは

思った通りのやさしい方ですねと言いました。

 

彼女の言葉は、百貨店の販売員のように巧みな話術で私を誘うのではなく、

素朴で私のこころにやさしく響きました。

 

都会ではこんなことはあまりありませんね。

 

田舎は都会と違って華やかさはありませんが、やはり私にはのんびりした

田舎のほうが似合っています。