満たされないこころ

 

数年前のことです。

 

私の会社では春にはいつものように入社式があり、希望と不安を抱いた若い人たち

たくさん入社してきました。

 

そのうちのひとりの女性が私の部署に配属されることになりました。

彼女は神経質そうでとても痩せていました。

 

新人教育を受けた彼女は、徐々に仕事には慣れてきましたが、その仕事の進め方は

どんくさいものでした。

 

入社後2,3か月もするとだんだん彼女のことがわかってきました。

 

彼女は完璧主義で何事もきっちり片付けないと気がすまないタイプでした。

いいかえれば融通の利かない不器用なタイプでした。

 

そのため、先輩社員からはいつも注意を受け、叱られていました。

新人にとってはいじめと感じるような先輩からのからかいもありました。

 

私はそんな彼女を見て、大丈夫だろうかと心配していました。

 

それから数か月が経ち、叱られ続けながらも先輩から嫌われないようにまじめに

仕事を頑張っていました。

 

その頃彼女は、精神的な強さがあったのか、だんだんたくましくなってきました。

そのたくましさは身体に現れ、少しぽっちゃりとした体形になりました。

 

私は今まで彼女は痩せすぎだと思っていたのでいいことだと思いました。

 

しかしながら、それからさらに数か月経つと、彼女の靴が悲鳴を上げるほど

彼女は肥満体形となってしまいました。

 

私が思うには、彼女の体重は1年足らずの間に軽く10キロは越えて増えたと

思いました。

 

ある時私は心配になり、体重のことは言わないようにして彼女に、何か困った

ことがあれば何でも相談に乗るから話しなさいと言いました。

 

すると彼女は、私は不幸な人間ですと言いました。

 

私が何が不幸なのかと聞くと、彼女は、人と比べて、お金もないし、仕事も遅いし、

頭も悪いし、美人でもない、何もいいところがないと言いました。

 

彼女は自分には価値がないし救われることもないので、人生に何の喜びも楽しみも

感じられなくなったと言いました。

 

いつも自分は人よりも劣っていると思っている彼女は、自分のコンプレックスに

対して敏感になっていたようです。

 

人に嫌われたくないために自分をよく見せようとして行動した反動で、家に

いる時は、食後でも寝る前でも、スイーツやお菓子を食べる習慣がついたようです。

 

仕事が休みの日でも、甘いもののお店に行って、カロリーの高いものばかり食べて

ストレスを解消していたようです。

 

こころが満たされるのではなく、彼女の胃袋が満たされました。

そのせいで彼女の体重はどんどん増えていったのでした。

 

私は彼女に言いました。

あなたは自分を人と比べて劣っているから不幸せだと言っていますね。

 

だったら私はあなた以上に不幸せだということになります。

 

私もあなたと同じようにお金はないし、仕事も遅い、頭も悪いし、美男子でもない、

人間的な魅力もない、何も取り柄のない最低の人間です。

 

よく人が落ち込んだ時、世界にはあなたよりもっともっと不幸せな人がいるんだよ、

それから比べればあなたはまだましだと励まされることがあります。

 

私はそのもっともっと不幸せな人と思われてもいいのです。

 

私のことを見て、自分より不幸な人がいると思って立ち直ってもらえれば

うれしいと思います。

 

私は人と比べて幸せとか不幸せとか思いません。

 

人と比べるよりも、私自身が昨日の私と比べて今日の私が少しでもよくなれば

それが幸せなんです。

 

私は彼女に、自分と人とを比べることはやめなさいと言いました。

 

彼女は私の考えには同感しませんでしたが、彼女と同じような底辺の私を見て

安心したのかそれ以上体重は増えることはありませんでした。

(減りもしませんでした)

 

彼女が元の体重に戻るためには、幸せとは人と比較するものではなく、

自分自身が幸せと思うようになることが必要なのかもしれませんね。