彼女が教えてくれたこと

 

コロナが流行る前で、随分前のことです。

 

私の会社では、忘年会、送別会など社員が集まってよく飲み会をすることが

ありました。

 

お酒を飲みながらワイワイがやがやと楽しい時間を持つことができました。

ある時、お酒を飲むと性格がいつもとはまったく違ってくる人がいました。

 

その人は20代後半で責任のある仕事を任されていました。

彼は仕事中はとてもまじめで、上司に逆らうこともなく、いい人でした。

 

そんな彼ですが、お酒を飲むとガラッと性格が変わり自己主張をするのです。

彼の周りにいる人に説教したり、人の悪口を言ったりしていました。

 

私は、いつもおとなしい性格の彼が、お酒を飲むとどうしてこんなふうに変わって

しまうのだろうかと不思議に思いました。

 

そんな飲み会があった翌日のことでした。

 

私はたまたまお昼休憩に彼と話をする機会がありました。

私は彼に、昨夜のことを覚えているかと聞きました。

 

すると彼は恥ずかしそうに、またやってしまいました、覚えていると言いました。

私は彼に、なぜあんなにいつもとは違う性格になってしまうのかと聞きました。

 

実は彼が子供の頃、彼は母親にいつも、ああしなさい、こうしなさいと指示・命令

ばかりされ、自分の考えや意見を持つことができなくなったようです。

 

そして彼は意見が衝突して揉めることが嫌だから、自分一人が我慢すれば丸く

収まると思うようになったようです。

 

彼は人から好かれるためには、自分が犠牲になることで周りからいい人と

見られたいと思っていたようです。

 

なのでその鬱憤がたまり、お酒を飲むことでそれが発散されるようでした。

 

私は彼に、今何かしたいことはないかと聞きました。

すると彼は、別に今、何かしたいと思うものはないと答えました。

 

私は彼に、人生で何か目的があれば人に嫌われてもいいから自分の気持ちを

貫くことができると助言しました。

 

そのとき彼は、私の教えを聞いてもあまり理解することはできませんでした。

 

そんな彼ですが、もう付き合って1年の彼女がいました。

 

彼女とデートするときも、どこへ行くのか、何を話せばいいのかを考えるのが

嫌で、いつも彼女まかせだったようです。

 

そして彼は、彼女とのこころの距離感をどれくらいとればいいのかわからない

ようでした。

 

彼女ともっと近づきたいと思っていても遠慮して、まだ近づくのは早いかなと

考えることもありました。

 

しかし彼女の気持ちとしては、もう1年も付き合っているのだから彼は

もう少し自分のことを理解してくれてもいいのにと思っていました。

 

それに対して彼は彼女に嫌われたくないので、キスをすることもなく

ただ手をつなぐことで精一杯でした。

 

ある時彼女から彼にメールが届きました。

今晩お話ししたいことがあるから会って欲しいとのことでした。

 

彼はレストランで食事をしようと返信しましたが、彼女はお茶だけでいいので

カフェにしてほしいとのことでした。

 

彼が時間通りに約束のカフェに着いたときにはすでに彼女は待っていました。

その時の彼女はいつもと比べて真剣そうな顔でした。

 

彼がいつものように世間話をしていると、そんな話はどうでもいいと言って、

彼女はまじめな顔で、私たちはこれからどうなるんですかと聞いてきました。

 

彼は彼女の突然の言葉に驚き動揺しました。

しかし彼は、動揺を隠し、今までどおり楽しくやっていこうよと答えました。

 

すると彼女は立ち上がり、もうあなたとは付き合っていられませんと言って

悲しそうな顔をしてひとりでお店を出ていきました。

 

彼には彼女が飲み残した紅茶のレモンがとても酸っぱそうに見えました。

 

そのとき彼は、私が言った、何かしたいものはないかということを思い出しました。

もしかしたら彼女は自分に何かを求めているのではないかと思いました。

 

実は彼女は、彼から嫌われてもいいから結婚したいという自分の気持ちを彼に

伝えたかったのでした、そして彼の気持ちを知りたかったのでした。

 

彼女は彼に、目的があれば嫌われてもいいから自分の気持ちを貫けるという

私の助言と同じことを身をもって教えたのでした。

 

その時彼は、自分の気持ちが彼女と結婚したかったのだと気が付きました。

 

人は何か目的を持つことで自分が何をしたらいいのか気づき、自分の意見が

言えるようになるのでしょうね。

 

その後ふたりは結婚しまし