花言葉の愛

 

少し時間ができました、ブログの書き方を忘れそうなので書いてみました。

 

 

以前私の部下でとても快活な性格の女性がいました。

 

とても器用な女性で仕事をテキパキこなす頭のいい人でした。

私は彼女のおかげで仕事が順調に進み、いつも感謝していました。

 

私が食事休憩の時、ふたりの若い女性社員が近くで食事をしながら、部下の彼女の

ことを話していました。

 

私は聞くつもりはなかったのですが、自然に話しが耳に入り、彼女に好きな

男性ができたようでした。

 

その男性は、私がよく知っている、彼女とは部署が違う同い年のイケメンでした。

私は恋愛感情が芽生えたせいなのか、最近彼女がきれいになったような気がしました。

 

彼女は彼とは部署が違っていましたが、仕事で移動するときに通路ですれ違ったり、

休憩時間に食堂で出会うことはよくありました。

 

彼女は誰にでも、すれ違う時には笑顔で「お疲れ様です」とあいさつをしていました。

 

彼女は彼とすれ違う時は胸がドキドキしたようですが、いつも満面の笑みで

彼の目を見て、やさしく「お疲れ様です」とあいさつをしました。

 

でも彼は彼女に無関心で、ちっとも彼女に振り向いてくれませんでした。

 

ある時彼女は髪を切って、彼の前でさりげなくその変化に気付いてもらおうと

しましたがまったく彼は無反応でした。

 

なんとか彼と親しくなりたかった彼女はあきらめきれませんでした。

そのうち、彼女の彼に対する態度は変化してきました。

 

彼とのすれ違い様には、彼の名札を見て「名札が傾いていますよ、きちんとなおして

下さい。」と厳しく注意しました。

 

また、彼が食堂で手を洗ったあとに拭くハンカチを見て「不潔ね、何日同じハンカチを

使っているの、くしゃくしゃじゃない」と軽蔑をしたような顔で言いました。

 

彼女の母性本能を刺激し、それがこのような愛情表現となったのかもしれませんが

私はその時の彼の困惑した顔を見て、彼女の気持ちが理解できませんでした。

 

私は彼女に、どうして彼にそんな態度をするのかと聞いてみました。

彼女は彼に対して、こころの中の本音を打ち明けることができなかったようです。

 

それで彼女は、やさしくしても振り向いてくれない彼に、きつい言葉をかける

ことで彼女の存在を気付いてもらいたいと思ったようでした。

 

彼女のそんな気持ちを理解してくれない彼にだんだんいらいらしてきたようでした。

でも普通に考えれば、そんな愛情表現が彼に理解されるはずはありません。

 

そんな頃、彼は人事異動で他の支店に赴任することになりました。

 

それを聞いた彼女は急に彼に優しく接するようになりましたが、

今までの彼女の態度を見てきた彼には、その気持ちはまったく伝わりませんでした。

 

残り少ない時間に焦る彼女は、なんとしても自分の気持ちを彼に伝えようと思い、

私にどうしたらいいのかと聞きました。

 

私の過去の経験から、そんな彼女の切ない気持ちは十分わかりました。

私は彼女に、変な小細工はしないで正直に自分の気持ちを伝えなさいと言いました。

 

でも彼女はストレートに愛の告白はできない気弱な性格でした。

 

彼との最後のお別れに、彼女は思い切って、白やピンクと紫色のきれいな花束を贈り、

これは私の気持ちですと言いました。

 

その花束はマーガレットとアゲラタムで「この花の花言葉は、真実の愛と

お返事くださいです」と書かれたメッセージカードが添えられていました。

 

彼が異動でいなくなった後、彼女は彼からの返事をこころ待ちにしていました。

そして2週間ほど過ぎた頃、彼から宅配便が届きました。

 

メッセージカードに「先日きれいな花束ありがとうございました、これは僕の

気持ちです受け取って下さい」と書き添えられていました。

 

そして彼女に届いたお返しは紫色のきれいなムシトリナデシコの花束でした。

 

その目立つ紫色の花びらは、その美しさに近づく虫たちを茎から出る粘液で

捕まえると言われています。

 

花言葉を熟知している彼女は彼の気持ちがすぐにわかりました。

その花の花言葉は「偽りの愛」でした。

 

彼女の「真実の愛」に対して彼は「偽りの愛」と解釈したようです。

 

結局彼女の気持ちは彼に伝わることなく、恋ははかなく消えてしまいました。

 

私は彼女からそれを聞いて、どうして自分の言葉で愛を伝えなかったのかと

とても残念に思いました。

 

きっと彼女には、彼のこころを捕まえる愛の粘液が不足していたんですね。