最期のラブレター

 

今回は母一人、娘一人の家庭の悲しいお話です。

 

母親が若いころ、ご主人が病気で亡くなり、母親は苦労しながら女手ひとつで

娘を立派に育て上げました。

 

その甲斐があって娘はある男性と将来、結婚する予定でした。

ところがその結婚相手の彼はコロナで職を失い無職となりました。

 

彼女も同じようにコロナで失業してしまいました。

彼はなかなかいい仕事が見つからなくて、マンションの家賃も払えなくなりました。

 

彼女は仕事をしている母親にお願いしてなんとか30万円を工面し、当面の生活費と

して彼に渡しました。

 

彼は彼女の家庭が裕福ではないことを知っているので、できるだけ早くお金を

返してあげたいと思いました。

 

彼はそのお金で何とか生活しな がら仕事を探し、やっと 消費者金融の会社に

入ることができました。

 

彼の仕事は、融資したお金の取り立ての仕事です。

 

まず、返済期日を過ぎても返済しない客に丁寧に入金のお願いをします。

それでも返済しなければ 催促の手紙を送ります。

 

それでも返済がなければ、本人に直接  電話をして催促します。

それでも返済しなければ、職場に電話するか自宅を訪問します。

 

彼の担当したお客に、催促してもなかなか返済しないお客がいました。

そのお客をAとします。

 

電話で催促すると、Aはコロナ で失業していて借金を返済するあてがなく、

いつ返済できるかわからないと言いました。

 

彼が返す気がないのかと聞くと、Aは返したいのはやまやまだが今はどうにも

ならないと申し訳なさそうに言いました。

 

彼の仕事は、いつ返済してくれるのか聞きだすのが仕事で、それによって

対応が変わってきます。

 

Aは返す当てがなくても返済する日を言わざるを得ませんでした。

その後、当然その期日が過ぎても返済することができませんでした。

 

そのため、彼の口調はだんだんきつくなりAはその催促でこころが痛みました。

 

彼はAを苦しめようとしていたわけではありませんでした。

彼の仕事は融資したお金の取り立てなので仕方がありません。

 

彼も彼女から借りたお金を返すために一生懸命に働いているのです。

 

何度催促しても返済してくれないAに対して彼は自分の気持ちをこめて

催促のメールを送りました。

 

「・・・・・・私は世界中で一番大切で一番愛している人からお金を借りています。

私にもあなたとおなじように借金があります、でも私はその大切な人のためにも

命をかけてもその借金を返すのが当然だと考えています。

私は同じ人間としてあなたに誠意を全く感じられません・・・・・・・・・・・・。」

 

そのメールを最後にAとまったく連絡が取れなくなりました。

仕方なく彼は、Aの自宅へ訪問することにしました。

 

家から出てきたのは病気療養でやつれて弱弱しい姿のAでした。

あいさつをして自分は消費者金融の社員だと告げました。

 

彼はAに会って今後のことを話す予定でしたが、病弱ながらAは、彼に対して

突然大声であなたは人殺しだと叫びました。

 

Aの娘が借金を苦にして自殺したと言いました。

彼は何がなんだか意味がよくわかりませんでした。

 

涙ながらにAの娘の写真を見せてくれました。

彼はその写真を見て驚き、動揺を隠せませんでした。

 

その写真に写っていたのはまさしく彼にお金を貸してくれた結婚予定の

彼女でした。

 

Aの娘は、彼が送った最後のメールを見てとても気にしていたと言いました。

 

実は、結婚予定の彼女は、彼が就職する前に、その後彼が働くことになる消費者金融

お金を借りて彼に渡していたのです。

 

そのとき彼女は失業していたので母親であるAとふたりでその消費者金融

行きました。

母親は一度も  彼とは会ったことはなかったのですが、彼女が将来、結婚したい

相手だというのでお金を借りに行きました。

 

彼女は失業中であり、働いている母親が借金の申し込みをしました。

 

彼女は母親には迷惑がかからないようにと申し込み書の連絡先には彼女の

メールアドレスと電話番号を書いてもらいました。

 

不幸なことに、その後、母親が大病を患い仕事が出来なくなり借金の返済が

できなくなり、その後入社した彼から催促を受けることになりました。

 

借金した人の名前が母親だったので彼はまさか自分が結婚予定の彼女を追い込んで

いるとは気が付きませんでした。

 

電話の時、冷静であれば相手の声でお互いが気付いたかもしれませんがそのときは

お互い感情的になっていてまったく相手が誰だか気付きませんでした。

 

 皮肉にも、彼の最後の催促メールは 彼女への最期のラブレターとなりました。

 

彼の想いは彼女にどのように伝わったのでしょうか。

 

彼女は自分の命をかけて彼に誠意を示したようです。