私の上司は元応援団長

 

まだパワハラという言葉があまり使われていない頃のお話です。

 

私は、今の会社では2、3年ごとに何度も転勤をしています。

ある支店に転勤になった時の事です。

 

私は新しい支店に赴任し、まず最初にそこの支店長にあいさつに行きました。

 

お互いに自己紹介をしたところ、その支店長は私が卒業した大学の先輩であり

そこで応援団長をしていたというのがわかりました。

 

私とは6学年離れていたので大学で見かけることはありませんでした。

 

私が大学に入学したばかりの頃、向こうから応援団員が数人歩いてきてすれ違う時、

その風格に圧倒され、怖くて目を合わせることなく、何事もなく通り過ぎるとほっと

したのを覚えています。

 

私にとっては応援団というのは特別の存在で、不気味な感じがしていました。

 

支店長は仲良くやろうと私の目を見て不気味な笑いをしました。

 

支店長とあいさつをした後、私は憂鬱になりました。

応援団員のように、厳しいしごきに耐えなければならないのかと思うと憂鬱でした。

 

それから一緒に仕事をしていて気が付いたのですが、なんと、とても私に優しい

のでした。

 

多分、同じ大学の先輩後輩であることがその優しさにつながったのでしょう。

一方、他の社員にはとても厳しいのです。

 

ある部署のリーダーが、来店した本社課長の業務チェックを受けた時、たくさんの

問題点が見つかりました。

 

その課長の業務チェックの厳しさは社内でも評判でした。

課長は多くの問題点を支店長に報告し、強く改善を求めました。

 

課長から指摘を受けた支店長は、頭に血が上り、即、そのリーダーを呼びつけ

課長の前で、お前のような仕事をしない人間はうちの会社にはいらない

すぐやめてしまえと言いました。

 

課長はそこまで言わなくてもいいと思いましたが、そのリーダーはショックで

気を落とし、泣きそうになってその場で早退しました。

 

でも、そのリーダーは普段は店長には従順なタイプだったので、翌日そのリーダーが

出社してきたときには、昨日は言い過ぎだったと謝りました。

 

これはまだ、パワハラという言葉が聞かれない随分前のことです。

 

問題なのがこの支店長のやり方を否定し、建設的な意見を言うリーダーに対する

仕打ちです。

 

支店長はたとえ立派な意見を言っても自分に逆らう人間には容赦しません。

 

人事部にいる同じ大学の先輩である人事部長にお願いをし、そのリーダーを

陽の目を見ることのない部署に配置転換をしました。

 

そのリーダーの人生はこれで大きく変わりました。

私はこの支店長を敵に回したら大変だと思いました。

 

この支店長は応援団長の時と同じように、社内に仲間を集め派閥を作り、人脈を

広げていました。

 

その後、私は半期の業績評価のための面接を支店長としました。

 

30分ほどでしたが仕事の話は最初に一言だけ、もう少ししっかり仕事をしろでした。

そのあとは大学の頃の話や雑談がほとんどでした。

 

そして最後に仕事の対する評価点を見せてくれました。

なんとトップクラスの評価点でした。

 

私はそんなにいい業績を上げていなかったのにもかかわらずこの評価でした。

 

私は驚きました、この支店長は業績よりも自分の好き嫌いで部下を評価するのでした。

私は目から鱗が落ちました。こんな人事評価の仕方があるんですね。

 

真面目だった私は今までの会社人生は何だったんだろうと思いました。

 

その後も私のことを特別可愛がってくれましたが、ある時、社長と衝突しました。

 

意見の合わない社長とは仕事ができないといって、仲間を10人近く引き連れて

会社を辞め、自分で事業を起こし、今では順調に業績を伸ばしています。

 

私もその時誘われたのですが、私の仕事ぶりを見ていたせいか、強くは誘いません

でした。

 

今ではそんな人物はいませんし、そんなことができない世の中ですが、応援団の

団長として仲間との絆を大切にしたとても人間味のある先輩でした。

 

私は応援団に入ってないのでよくわかりませんが、厳しさの中で結ばれた固い絆は

彼の人生にとって大きな影響を与えたと思います。

 

私の甘い性格は、応援団に入っていれば少しはマシになっていたかもしれませんね。