愛のすれ違い

まだメールが一般的ではなく、手紙が主流の少し前の頃のことです。                                    

彼には大学時代から付き合っていた彼女がいました。

彼は就職活動をし、内定をふたつもらって彼女に相談しました。

 

一つは東京の大きな会社、もう一つは地元の会社でした。

 

彼女は地元の企業に就職が決まっていて、彼が東京の会社を選べば

今までのようにしょっちゅう会うことができなくなります。

 

彼女は、あなたの将来のことだからどちらでもあなたのいい方を選んでと

言いました。

 

彼は、第一希望の東京の会社に行くことに決めました。

 

学校を卒業して、最初の頃は3か月に1回くらいふたりは会っていました。

時々手紙のやり取りもしていました。

 

そのうち、ふたりとも仕事が忙しくなり、なかなか会うことができなくなりました。

でも彼女の彼に対する愛は変わりませんでした。

 

彼はだんだん仕事が認められ、重要な仕事を任せられるようになりました。

彼は仕事がおもしろくなり、彼女のことを想う気持ちがだんだん薄れてきました。

 

会社に入って3年が過ぎた頃、彼はとても信頼のおける上司から結婚話を持ち掛け

られました。

 

会うだけでも会ったらということで、会ってみると、とても美人で家柄もいい

お嬢さんでした。

 

性格も彼とよく合い、結婚を前提にお付き合いが始まりました。

 

彼の誕生日にはこころのこもった手作りのパイを食べさせてくれました。

やさしい笑顔で語りかける彼女に、彼はこころの安らぎを感じるようになりました。

 

とても親切でやさしい彼女とはだんだん仲がよくなりました。

 

その頃、地元の彼女から一通の手紙が届きました。

 

今の彼女に夢中になっていた彼は気にもかけませんでした。

その時彼は、封も開けずに机の引き出しにしまい込みました。

 

そのままふたりが 結ばれると思われましたが、突然の悲劇が起こりました。

 

過労気味だった彼に病気が重なり、仕事に耐えきれなくなり、 長期入院する

こととなり、会社を辞めざるを得なくなりました。

 

今の彼女がお見舞いに来た時、事情を話すと、それ以来連絡が取れなくなりました。

 

彼女は彼を愛していたのではなく、彼の会社とその地位を愛していたのです。

安定した良い暮らしが欲しかったのでしょう。

 

彼は目が覚めました、地元の彼女こそ本当に自分のことを愛しているのだと。

 

こんなに彼のことを愛していてくれた、地元の彼女をほったらかしにしていた

自分を責めました。

 

彼には地元の彼女がとても必要な人だと思いました。

 

彼は間違いを認め、地元の彼女にお詫びをしたいと思いました。

 

最後にもらった手紙に誠意をもって、返事を書こうと、封を開きました。

その手紙にはこのように書いてありました。

 

「ご無沙汰しています。お元気ですか?お仕事とても忙しいのでしょうね。

あなたが何事もなく無事に暮らしていることを切に願います。

 

最近はお手紙書いてもなかなかお返事いただけません。

あなたとお付き合いを始めてもう5年が過ぎました。

 

私も結婚適齢期、知合いの人から、いい人を紹介されました。

相手の方にとても気に入ってもらってお話が進みそうです。

 

この手紙が届いてから一週間以内にお返事ください、そうしないと・・・・・。

 

私はあなたからのお返事をこころから待ち望んでいます。

 

                     世界中であなたを一番愛している私より。」

 

 

この手紙が届いてからすでに半年が過ぎていました。

 

彼はこころのなかで思いました。

 

私は今、彼女が どうなっているのか知りたくはありません。

 

私に今できることは、彼女が幸せになっているようにとこころから祈ることだけです。