愛といじめ

 

私は小学校の4年生の時、いじめにあいました。

 

私が通う小学校では、二人用の机に男の子と女の子が

隣り合わせに座って、勉強したり給食を食べたりします。

 

3学期の席替えでA子と隣り合わせになりました。

それまであまり話したことはなかったのですが、かわいい子で表面的には

まじめで感じのよさそうな子でした。

 

ところが席替えをした初日から私を毛嫌いするのです。

私がすることをいちいち文句を言うのです。

 

もっと背筋を伸ばして座れとか、消しゴムで鉛筆の文字を消すのに

もっときちんと消せとか、服がよごれて不潔とか、給食の時は

嫌いな食べものを残すといやな顔をして私を軽蔑のまなざしで見ます。

私のすることが全否定されたような気がしました。

 

そんなことがいつまでも続くので私は休憩時間にはなるだけ席から離れ、

始業のベルが鳴っても、先生が教室に入ってくるまで、友達とおしゃべり。

 

先生が教室に入ってきて、仕方なく席に着くと、もっと早く席に着きなさいと、

A子は不機嫌そうに言います。

 

もういやです。毎日毎日がとてもつらかった。

 

私は毎週、日曜日の夕方、テレビでサザエさんを見るのが大好きでした。

ところがこの頃、この時間になると、また明日からA子と

一緒かと思うと、サザエさんを見るのが憂鬱な時間となりました。

 

私は先生に席を替えてほしいと言いたかったのですが、小心者の私には言えません。

でも、春休みになればA子と離れられると思い、いじめられてつらいながらも

春休みまで我慢して、やっと春休みになりました。

 

そして5年生になりました。

クラス替えで幸いにもA子とは別のクラスになりました。

隣の席から解放されただけではなく、同じクラスからも解放されほっとしました。

 

ある日、A子と廊下ですれ違いました。私は無視して通り過ぎようとしました。

A子が声をかけてきました。満面の笑みで「おはよう、元気でやっている?」

なんか今までとは違うなと思いながら通り過ぎていきました。

 

それから会う度に笑顔で挨拶してくれます、不思議な気持ちになりました。

 

ある日、運動場で走って遊んでいた時のことです。

バランスを崩して転んでしまい、擦り傷を負い、足から血が滲んでいました。

たまたま近くにA子がいて、近づいてきて「大丈夫?」と言ってすぐ保健室の

先生を呼んできてくれました。

 

隣の席にいた時とは全く別人です。私には何が何だかわかりませんでした。

 

そのうちA子の姿を見かけなくなりました。

 

どうしたのかと思い、A子のクラスの子に聞いたところ、お父さんの

転勤のため、転校して行ったとのこと。

私の心にぽっかりと大きな穴があきました。大切なものを失ったように。

 

今思えば、A子は隣に座る前から、私がだらしないのに気づいていて、

私をまるで母親のように愛情を持って厳しくしつけをしていたのでしょう。

 

そして、クラスが替わって、まるで親元から離れた子を会う度に優しく迎える

母親のような気持だったのでしょう。

 

今どこで何をしているかはわかりませんが、きっと、いい母親として子供が

立派になるように厳しく育て上げたに違いません。

 

しかしながら、愛といじめの区別がつかなかったあの頃、とても

つらかったのは忘れられません。

 

そんなわけで、私は今でもだらしなく生きています。