涙する牛

 

随分前ですが、私は一度だけ屠殺場見学に行ったことがあります。

 

血の気のない無表情の男性に短い綱で引かれる牛はこれから

何が起こるのかわかるようで、後すざりをして抵抗していました。

 

しかしながら、そのうち観念したのか立ち止まり、その目には涙が。

屠殺人は銃のようなものを取り出し、眉間に一発。

 

一瞬で気を失ったように音を立てばたりと倒れました。

腹を切り裂くとまだ湯気の出る生暖かい内臓が地面に大きく広がりました。

 

私はあまりにもショックで気分が悪くなりました。

そのあとの見学は何があったのか全然覚えていません。

 

私は2度と屠殺場には行きたくありません。

 

 

地球上には約15億頭の牛がいます。

 

地球で暮らす人間全体の水の消費量は1日200億リットル、食料は10億トン。

15億頭の牛は1日に1700億の水と600億トンの食料が必要とされています。

牛を一頭育てるのに必要な水は年間4万1600リットル必要のようです。

 

また、牛が排出するメタンガス(げっぷやおならなど)は世界の温室効果ガスの

総排出量の10%を占めると言われています。

 

私たちが牛肉を1Kg食べるごとに、車で100Km走るのと同じ量の温室効果ガスが

排出されるとも言われます。

 

牛を食肉用に育てるということは、資源の問題や環境に大きな負荷がかかります。

それでも人間は、ステーキや焼肉のおいしさに負けて、わがままを続けています。

寒い夜、家族団らんで食べるすき焼きは最高においしいと言う声も。

 

肉牛は食べられるために生まれてきたのだから、おいしく食べてもらって

感謝されることが幸せだと言う人もいますが、私はそうは思いません。

 

私は、牛も人間とおなじように心を持ち、食べられるために生まれた

運命を嘆き、この世との別れを悲しみ、殺さないでほしいという願いと

怯えで思わず涙が流れてしまったと思います。

 

涙する牛の気持ちを考えると私も涙が止まらなくなります。

 

あの牛の、涙が溢れる目は、いまでも鮮明に脳裏に焼き付いています。