父の日の思い出

 

私がまだ独身の頃のお話です。

私がある支店に勤務していた時のことです。

 

私の部署に、高校を卒業して1年くらいの若い女の子が入社してきました。

前の仕事は自分に合わなくてすぐに辞めてここに来たようでした。

 

彼女の父親は、彼女が小さい頃亡くなり、顔を覚えていないようでした。

 

彼女はすごく純粋で、私が教える仕事をきちんと理解して、まじめに

仕事をしていました。

 

ところが、私はいい子が入ってきたなと思いましたが、周りの人の評判が

まったく良くなかったのです。

 

特に女性には嫌われていたようです。

 

朝出勤して更衣室で出会う社員に挨拶をしないし、大きなバッグを他の人の

ロッカーの前に置いて着替えるので、後から来た人の邪魔になったそうです。

 

お昼は食堂で、家から持参したお弁当を食べているようでしたが、

 

ふきんで拭かないので、彼女が食べ終わっていなくなったテーブルには汚れが

残っているようでした。

 

女子休憩室では入り口の近くで大の字になって寝ていて、出入りする人の

邪魔になっているようでした。

 

そのほかにも、私の部署の女子社員から数知れず彼女の悪い評判が、私の耳に

入ってきました。

 

いくらまだ未成年と言っても、もう社会人です、社会の常識を身につけて

もらわなければなりませんでした。

 

私は仕事中に彼女に聞いてみました、あなたは今まで、家ではどんな教育を

受けてきたのかと。

 

彼女は、母親は朝から夜遅くまで仕事をしていて、サービス業に勤めていて

 

休みは平日だったので、一緒にいる時間が少なく、ほとんど教育はされていないと

言いました。

 

私は彼女がかわいそうになりました。

 

こんなに私のことをよく聞くまじめな子は、両親が揃っていてきちんと

教育を受けていれば、きっと立派な人物になっていただろうと思いました。

 

私は彼女に、なんとか社会人として一人前になってもらおうと思い、

仕事を教えながら、同時に、人としてのしつけも教えました。

 

若い彼女は、私の教育を素直に受け入れました。

それから2年も経つと、彼女は大きく変化しました。

 

彼女は、仕事以上に、人間としての成長が目立ってきました。

 

その頃にはもう、誰も彼女の悪口を言う社員はいなくなりました。

彼女よりだらしのない後輩社員がたくさんいたからです。

 

私と彼女は7歳の年齢差がありましたが、だんだんその差が縮まってきたような

気がしました。

 

この間に、彼女は精神的に大きく成長し、立派な大人になってきました。

 

その頃には、お化粧もうまくなり、洋服のセンスもよくなり、すれ違う男性が

思わず振り返るような、際立った美人になっていました。

 

私は、人間としてとても魅力的になった彼女に、恋心を抱くようになりました。

私は彼女と仕事をするのが楽しくて仕方がありませんでした。

 

それから数か月後の6月、彼女は私にプレゼントと一緒にハートのマークの

ついたメッセージカードを贈ってくれました。

 

私は大喜びしました、ふたりの恋がむすばれたと思いました。

家に帰って急いでメッセージカードを読みました。

 

「大好きなあなたへ、これはこれまで私を育ててくれた父の日のプレゼントです。

私は早くから父を亡くし、父親の存在を知りません、私はあなたを父として

 

これからも尊敬していきたいと思います。ありがとうございました。」

 

これを読んで私はとても複雑な心境でした、彼女は私を彼氏ではなく、父として

愛してくれたのでした。

 

現実は恋愛小説のようにハッピーエンドにはなりませんね。

 

それから1年後には彼女には彼氏ができ、結婚し、会社を退職しましたが

彼女が幸せになってくれたのでよかったと思います。

 

私にとってはほろ苦い父の日の思い出です。

 

本当はこの記事は来年の父の日頃に投稿すればいいのでしょうが、

私のブログはこころで書くので、こころが熱いうちにと思い、今投稿します。

 

読者のみなさま、このことは私の妻には絶対に内緒にしてください。

お願います