愛のうなぎ予約

 

先日友人からメールがあり、話がしたいので時間が取れないかとの事。

仕事帰りにカフェで待ち合わせて話をしました。

 

何事かと思うと、毎年恒例の国産ウナギの予約のお願いでした。

今年ももうそんな時期になったのかと思い、1匹ほど予約しました。

 

私は国産ウナギは高級な魚だと思っているので、普段はほとんど買いません。

 

彼は食品スーパーに勤めていて、ノルマが厳しくて大変だと言います。

 

社員の場合、土用の丑の日の予約は一人数万円で十数匹売らないとノルマは

達成しないようです。

 

各部署に目標が割り当てられ、さらに、それが個人に割り当てられるそうです。

 

リーダーは毎週集められ、その週までの目標金額と達成度合いのグラフを

配布され、成績の悪い部署は激励され次週までの目標を発表させられるようです。

 

会社はこれは皆さんの販売技術向上のための訓練だと言うそうです。

 

みんな、心の中ではセルフサービスが中心のスーパーでうなぎの予約が

本当に販売技術向上に役に立つのか思っているようです。

  

従業員には来店したお客に声をかけて、接客で販売することで売り上げに

つながるし接客技術も身につくと言うそうです。

 

やりがいのある仕事と会社は言いますが、誰ものそのようには思っていないそうです。

 

しかし、ウナギを店内で接客してもほとんど売れないし、お客も嫌がります。

従業員が至る所で毎日ウナギ予約の声掛けをすればお客も迷惑です。

 

そのうち、従業員は店内での販売はあきらめ、勤務時間外や休日に知人に

売り歩くようになります。

 

会社は時間外手当や時給を払わなくても販売活動をしてもらえるのです。

また予約販売は売れ残りの値下げや廃棄ロスがないので儲けが多いようです。

 

 会社としてはウナギの予約販売はおいしい営業です。

 

どうしても売れない社員は自分でノルマ分を買って、夕食は家族全員で

贅沢三昧のうな重が2、3日続きます。

 

何も気にせず、たらふく食べる子供の姿を見ると、ウナギの価値を教える

事の出来ない自分を腹立たしく思うようです。

 

ある社員は、保険の外交員をしている知人にウナギの予約をお願いしたところ

代りに保険の契約をさせられてとても高くついたと嘆いていたそうです。

 

予約獲得の上位者には表彰される制度があり1位から5位には商品券が与えられます。

その中でいつも1位になり表彰される女性がいるようです。

 

彼女は優しくてとても親切な人ですがそんなにウナギを売るようなタイプでは

ないようです。

 

友人が彼女になぜそんなにウナギの予約が取れるのか聞いたそうです。

 

彼女が若い頃、まだ子供が3歳でしたがご主人が病気で亡くなり、子供を

育てるのに大変苦労したようです。

 

女手ひとつで幼い子を養う辛さを心の底から感じたそうです。

 

襲い来る強い不安と絶望感に背中を押され死の世界に飛び込もうとした時

残された可愛い自分の子供のことを想うと、足が踏みとどまったそうです。

 

 

死ぬ気で頑張ったら、世間には優しい人がたくさんいることが分かったそうです。

 

辛いながらも、多くの人々に助けられ、何とか子供を育て上げ、その間にはこころの

通った多くの恩人ができたそうです。

 

その人達との交流は今でも続いていて、その恩返しに、愛をもって、いつも尽力

しているようです。

 

その彼女が、ウナギ予約のことを話すと、みんなが、それくらいのことなら

注文してあげるよ、どうせどこかでウナギは予約するのだからとのことです。

 

 

私は友人の話を聞いて、こころの繋がりはどんな販売力よりも強いものだと

思いました。  

 

人を愛することは必ず自分に戻ってくるのですね。