年下の上司

 

私が今の会社に入社して20年目の頃、5年後に入社した後輩が私の上司として

同じ支店に異動してきました。

 

私は特別能力もなく、出世意欲もなく、こつこつと仕事をこなしていくタイプでした。

なので、後輩に追い抜かれても仕方がないと思いました。

 

私は以前から、同じ課の社員が本社に集まる会議で彼のことは知っていました。

彼の発言はとても建設的で素晴らしくみんなは一目置いていました。

彼とわたしとは全くタイプが違う人間で、個人的に話をするのは遠慮していました。

 

彼は昇進したばかりで目が輝き、仕事に対する意欲は満々で張り切っていました。

 

最初に言われたことは、あなたは先輩ですが、私のやり方に従ってください、

いやなら辞めてもらっても結構ですというきつい言葉でした。

 私もサラリーマン、食べていくためには上司に逆らえません。

 

他の部下も彼の厳しい仕事の指示には精神的に参っていました。

 私と同じように生活がかかっているし、家のローンを抱えている人もいます。

彼はその弱みを十分認識しているようで、厳しく指示します。

 

私は、彼が人間ではなく鬼に見えました。

職場はだんだん暗くなってきました。

 

ある時、部下が、家族ぐるみで付き合っていた親友の奥さんに不幸があったので

休ませてほしいとその上司に言っていました。

 

上司は、会社の慶弔規定には当てはまらない、みんな今月の目標を目指して

頑張っているのにやる気があるのかと部下を怒っていました。

 

私はそれを聞いて、とても我慢ができなくなり、上司を別室に連れていき、

あなたは仕事はできるが人間としては失格だと説教しました。

 

それからは先輩の私には少し遠慮するようになりましたが、他の部下には

以前と同じように厳しくしていました。

 

パート社員の中には厳しさに耐えきれず退職する人も出てきました。

 

その噂が本部の人事部に届いたようで、1年後、降格人事があり、彼は

他の支店に異動になりました。

 

みんなやっと平和になったと大喜びでした。

 

そして2年後、私は他の支店に異動することになりました。

赴任してビックリしました、なんと、そこには元鬼上司がいるではありませんか。

別の課に所属していましたが、私と同じ地位です。

 

私がお昼に食堂で食事をしていると、彼が私に気付き、目の前の席に座りました。

以前と違って、とても穏やかな目で私に話しかけてきました。

 

あの頃はまわりがりが全然見えていなくて無我夢中でした。

私は今の立場になって、初めて、先輩に注意されたことの意味が分かりました。

今では先輩にあのように言われたことをとても感謝していますと言いました。

 

そんな彼は今では部下の気持ちを理解し、愛をもって部下を指導しています。

 

数年後、彼は今の会社を退職し、自分で事業を立ち上げ、従業員を大切にすることで

今では順調に業績を伸ばしているようです。

 

上司というものは仕事だけではなく、人間としても立派でなければ誰にも

尊敬されないものだとよくわかりました。