最愛の母
私は毎年夏休みには実家に里帰りします。
実家の近くにはお墓があり、そこには母の遺骨が埋蔵されています。
蒸し暑いある日のことです。私はお墓参りに行きました。
まずは墓掃除。
落ち葉や、雑草をきれいに取り除き、墓石に水をかけてスポンジで洗います。
こまかい部分は歯ブラシを使って丁寧に汚れを取り、布でふき取ります。
そして花屋さんで買ってきたお花を供えます。
やさしくて大好きだった母のことを思い出しながら両手を合わせたところ
私の耳元でぶ~んと蚊が飛び回ります。
気が散って母を拝むことができません。
私は手を振り回し、その蚊を追い払いました。
そして拝もうとするとまたその蚊が私の耳元で音をたてて飛び回ります。
しつこい蚊だと腹が立ってきました。
蚊 (私はこんな姿に生まれ変わってしまったけど、実は私はあなたのお母さんよ。
私に気付いてほしいから、あなたの耳元でささやいているのよ。
ねえ、あなたを想う私の熱い気持ちを感じてほしい。)
私はこの蚊がなぜこんなにしつこいのだろうかと思いました。
私の血がそんなに美味しそうなのだろうか。
蚊 (私はあなたの血を吸ったりしないわ、ただあなたの肩の上に乗って
寄り添うだけでいいのです。)
私は飛び回る蚊を何度もつかみ損ねましたが、ついに片手でつかみました。
その蚊は私の握力で少し弱ったようです。
蚊(私はあなたに危害は与えません、どうか私を逃がしてください。
ただ、親愛なるあなたのそばで、そっと、ぬくもりを感じたかっただけです。)
私はこの蚊が逃げないようにと力いっぱい手を握りしめました。
しかしながら、指と指の隙間のおかげでまだつぶされないで生きています。
蚊(私は、自分が生み育てた愛する我が子に、このように殺されようとしていますが
最後に身をもってあなたに、愛の意味が何かということを伝えます。
一寸の虫にも五分の魂があるということを忘れないでほしい。)
今度は手を開き、隙間ができないように両方の手のひらでぐっと押さえました。
両手を離すと無残にも押しつぶされた蚊がいました、ふっと息を吹きかけると
風とともにどこかへ飛んでいきました。
私は邪魔で気を紛らわす蚊がいなくなったので両手を合わせ、心のなかで
つぶやきました。
「お母さん、あなたはとてもやさしく、私の最愛の人でした、せめてもう一度
だけでもいいからあなたに会って、あなたの愛のぬくもりを感じたいのです。」
とても悲しいお話ですね。
もしかしたら、実はあなたのまわりには姿を変えた先祖の魂がたくさん
いるかもしれませんよ。