採れたての新鮮なタケノコ

 

私の会社にも毎年春には人事異動があり、新しい出会いがあります。

 

今年も私のいる支店でも数名の社員が入れ替わりました。

みんな張り切っていて、早く新しい環境に慣れようとしているようです。

 

私はその人たちを見て、私が以前、この支店に人事異動で赴任してきた頃の

ことを思い出しました。

 

私は生活環境の変化に対応するのが苦手な人間です。

私はいつも人事異動の時期になると不安な気持ちで働いていました。

 

もし県外の遠くの支店に異動になるとしたら、引っ越しのために

家を探さなくてはならないし、引っ越しシーズンでは引っ越し業者の手配も大変です。

 

引っ越し前後の荷物の整理の大変さを考えると憂鬱でした。

そのときは運よく、家から通える近くの支店に異動となりました。

 

引っ越しはしなくて済みましたが、職場環境が変わることが不安でした。

一番の不安は、新しい支店で一緒に働く人たちとうまくやっていけるかどうかと

言うことでした。

 

新しい支店に初出勤の日は少し早めに家を出て、緊張した気持ちで会社の

通用口を通りました。

 

そこには警備の人がいたので、今日からここでお世話になりますと挨拶をすると

とても人の良さそうな人で、笑顔で、こちらこそよろしくお願いしますと言いました。

 

その親しみのある笑顔は私の不安と緊張感をやわらげてくれました。

そして事務所に入ると、支店長が早めに出社してひとりで仕事をしていました。

 

私が挨拶をして名前を名乗ると、彼は、初めまして私が支店長の○○ですと言い、

まだ仕事始めまで時間があるから、食堂でコーヒーでも飲もうと私を誘いました。

 

そして私の今までの経歴や趣味などを聞き、その後の朝礼で支店のみんなに

私のことを紹介してくれました。

 

そして私はみんなの前で自己紹介しましたが、みんなの目は興味本位で珍しい

ものでも見るように私に向けられました。

 

私はそのとき、よそ者が来てこれからどんなことをするのか見てやろうと

言うような視線を感じました。

 

前にいた支店の人たちは私と仲が良く優しい人ばかりだったのに、この人たちは

とても冷たそうな人ばかりだと思いました。

 

朝礼が終わって私の部署に行きましたが、さっき私を注視していた人たちは

打って変わって、私を無視したように自分の仕事に入りました。

 

私は遠慮がちに必要最低限の仕事の話だけはしました。

 

そしてお昼になり、食堂でお昼ご飯を食べましたが、周りは知らない人ばかり、

ひとりで黙って食べるご飯はとても味気ないものでした。

 

それから男子休憩室に行くと、数人が休憩をしていて、テレビを見たり本を

読んだりスマホを見たりしていました。

 

私はみんなから少し離れたところで黙って、テレビを見るのではなく眺めました。

お笑いのような番組をやっていましたが、私にはちっとも面白く感じませんでした。

 

私がひとりで寂しそうにしているのに気付いたのか、近くにいた私と同年代くらいの

社員が、私に話しかけてきました。

 

彼はとても優しそうな人で、私の不安な気持ちを理解してくれたのでしょう。

話してみると彼とはとても気が合い、仲が良くなり、すぐに親しくなりました。

 

その後、彼は家の近くで朝採れた大きなタケノコを会社に持ってきてくれました。

採れたばかりの新鮮なタケノコは自然の香りが漂っていました。

 

彼は私に、採れたてのタケノコのおいしさを是非とも味わってほしいと言いました。

彼は親切にも、米ぬかと唐辛子も用意してくれていました。

 

家に帰って茹でて食べたタケノコは柔らかくてとてもおいしいものでした。

 

私はタケノコを食べながら彼の素朴で飾り気のないこころに愛を感じました。

それから私は、彼を起点としてだんだん同僚とのこころの輪が広がりました。

 

こうして私は今の支店に慣れてきました。

それから私は彼を大切な人だと感じるようになり、今でも友情が続いています。

 

今では、前の支店以上に仲のいい同僚に囲まれて仕事をしています。

 

世の中にはいい人がたくさんいるのに、人事異動の度に不安になる私は

まだまだ人生の未熟者なんでしょうね。

 

みなさんは私のように人事異動で不安な気持ちになりませんか?