息子への愛

 

数年前、私がコンビニにお弁当を買いに行った時のお話しです。

 

その日は、私は仕事がお休みでした。

お昼前に、家の近くのコンビニにお弁当を買いに行きました。

 

お店に入ってお弁当が置いてある場所に近づいた時、近くのパンのコーナーで

80歳くらいのお婆さんがパンを選んでいるように見えました。

 

私は彼女の様子がなんか変だなと思いながらお弁当売場に行きました。

 

私がお弁当を選んでいる時、ふと彼女に振り向くと、彼女が持っていた

手提げ袋に、棚からさっとパンを入れるのが見えました。

 

そして彼女は、店員が他のお客のレジ対応している間に、何食わぬ顔をして

お店の外に出ました。

 

私は万引きだと思い、彼女の後を追いかけました。

私は彼女に追いつき、あなたは今、お店のパンをその袋に入れましたねと言いました。

 

すると彼女は、お願いです見逃してくださいと目に涙を浮かべて私に言いました。

 

私は彼女に、なぜパンを万引きしたのか聞きました。

彼女は50歳になる息子と二人暮らしでとても貧しい生活のようでした。

 

息子は3年前まで会社勤めでしたが、厳しいノルマや劣悪な労働環境で心身ともに

疲弊し、会社を辞めて再就職しないで彼女の年金で暮らしていたようです。

 

彼女は息子が会社勤めで苦労していたのを知っていたので、再就職のことは何も

言いませんでした。

 

生活費の不足は、息子が会社勤めしていた時の貯えで補っていましたが、

それもだんだん残り少なくなってきました。

 

そんな頃、息子が病気にかかり、その治療のため、息子はしばらく通院をしました。

 

息子は国民健康保険を滞納していたため、治療費の全額を負担しなければ

なりませんでした。

 

息子は治療のおかげで病気もだいぶ回復したようですが、治療費がかかったことで

お金がなくなって、ふたりとも、もう二日間何も食べていないようでした。

 

私は彼女にパンは何個取ったのか聞きました。

すると1個だと言いました。

 

私はなぜふたり分の2個取らなかったのか聞きました。

 

彼女は二日後には年金が入る、私は我慢できるが病後でやつれている息子に

だけは少しでも食べさせてあげたかったと言いました。

 

私はそれを聞いて胸が熱くなり、かわいそうにと思いました。

一瞬、私は彼女を見逃してあげようかと思いましたが、考え直しました。

 

もし私が今ここで彼女を見逃せば、きっと将来、彼女は後悔してこころが痛む

だろうと思いました。

 

私はこんな人こそ許してはいけないと思いました。

 

私はこころを鬼にして彼女をコンビニに連れ戻し、店長に彼女の万引きのことを

知らせました。

 

彼女は取ったパンを返し、店長に何度も何度も謝りました。

 

どんな事情があっても万引き行為は犯罪です、店長はすぐに警察に連絡し、

お巡りさんがきて彼女にいろいろ聞きました。

 

その後、お巡りさんは息子に連絡を取り、身元引受人としてお店に来てもらって

事情を説明しました。

 

それを聞いた息子は店長にだけではなく、母親にも申し訳ないと思いました。

 

本来ならこの場では、母親の行為に対して叱るのが当然なのですが

自分のふがいなさで母親がこんなことをしてしまったと思うとできませんでした。

 

ただただ謝りました、そしてふたりは反省してお店を出ました。

 

その時私はお店でパンを2個買い、これからあなたたちが再出発するための

お祝いだと言って渡しました。

 

それから数か月後、またそのお婆さんに偶然出会いました。

彼女はあの時のお礼を言った後、続けて嬉しそうに私に言いました。

 

あれから息子は自分のふがいなさを反省し、仕事をするようになり、パートながら

元気で働いているそうです。

 

あの時があったから息子は働くようになったと再度私にお礼を言いました。

私はそれを聞いてとてもうれしく思いました。

 

私はそのとき、愛とは優しさだけではなく、厳しさも必要だなと改めて感じまし