ひきこもりだった娘の結婚式

 

コロナが流行る前のことです。

私は結婚式に招待されました。

 

きれいな花嫁がウェディングドレス姿で父親と一緒に幸せをかみしめながら

一歩一歩、ゆっくりゆっくりバージンロードを歩む姿は感動的ですね。

 

そして新郎と愛を誓い、振り向けば扉の向こうには明るい未来が開いています。

女性にとっては人生で最も感激するシーンのひとつですね。

 

私はこの花嫁がよくここまでこれたと涙が出ました。

 

 

 

 

私の知り合いに、20代半ばのひきこもりの娘を持つ母親がいました。

 

その娘は大学時代に好きでもない男性に付きまとわれたのが原因で

ひきこもりになったと言います。

 

娘は就職活動もできなくなり、なんとか大学だけは卒業しましたが

ずっと仕事に就かないで家に閉じこもっていたそうです。

 

最初の頃、父親は「何もしないで怠けてばかりでどうする、もっと真剣に

自分の将来のことを考えろ」と言っていました。

 

母親は「普通の人はみんな真面目に仕事をしているのよ、どうしてあなたは

できないの?」と言っていました。

 

娘はふたりの言うことを聞いて、とても悲しそうな顔をしました。

 

彼女はひきこもりといっても部屋の中に閉じこもりっきりではありませんでした。

 

普通に食事は両親と一緒に食べました、しかしそれ以外はほとんど自分の部屋に

閉じこもっていました。

 

彼女は家族以外の人とは接触することができなかったのです。

 

娘は何度も何度も同じようなことを繰り返し言われましたが、両親の思うように

ひきこもりから立ち直ることはありませんでした。

 

彼女のひきこもりが治らないのは親の責任だと思い、両親はなんとしても彼女を

救いたいと思って彼女を病院に連れて行こうとしました。

 

ところが彼女は固く拒否し、連れて行くことができませんでした。

 

それで藁にもすがる思いで、彼女の両親は私のところに相談に来ました。

 

両親は彼女がなんとかとじこもりから立ち直り、就職し、そして幸せな

結婚生活を送れるようになることが最大の願いでした。

 

私は彼女とは会ったことはありませんでしたが、両親から彼女のことを

じっくり聞きました。

 

そして彼女に対してどのような対応をしてきたのかすべて聞きました。

それを聞いた私はすぐに解決方法が見つかりました。

 

父親はどうすれば彼女を病院に連れて行くことができるかと私に聞きました。

私は無理に病院に連れて行くことはないと言いました。

 

父親は、これだけ今まで娘のことを思ってなんとか立ち直らそうと

私たちの気持ちを娘に伝えてきたがそれでもだめだったと言いました。

 

病院に連れて行かなければどうするのかと私に聞いてきました。

 

私はつい、あなたたちはなんてバカなんですかと言ってしまいました。

 

すると父親は、あんたのような他人に娘のことを相談したのがバカだったと

言って立ち上がって帰ろうとしました。

 

母親は慌てて父親を押さえ、最後まで話を聞いてみましょうとなだめました。

 

私は続けました、あなたたちは娘さんにあなたたちの思いを伝え続けましたね。

そしてなんとか娘さんを立ち直らせようとしました。

 

でも、その時の娘さんの気持ちがどんなのかわかっていませんね。

 

きっと彼女は、自分がこんなに苦しんでいるのにどうして両親はわかって

くれないのかとつらく思っていたはずです。

 

彼女はなりたくてひきこもりになっているのではない、自分でもなんとか

この苦しみから逃れたいと思っていたはずです。

 

それなのに、怠けているとか、普通になりなさいと言われてもこころが

傷つくばかりです。

 

お願いです、彼女の話をじっくり聞いてください、そして彼女の気持ちを

理解してあげてください。

 

彼女と同じ気持ちになって彼女に接して下さい。

そうすればきっと彼女はこころの扉を開いてくれるはずです。

 

すると私の気持ちをわかってくれたのでしょうか、父親の目から涙が

流れていました。

 

そして父親は、ありがとうございました、私たちの考え方が間違っていましたと

言って私と固い握手をしました。

 

それから数か月後、娘は短時間のパートの仕事に就くことができました。

 

こころの苦しみを乗り越えた娘は人にとても優しくなり、それに魅力を感じた

同じ職場の男性に求婚され、両親が願っていた娘の幸せな結婚が実現しました。

 

人の気持ちを理解してあげることはとても素晴らしいことですね。