負け犬の幸せ

 

私が小学校の4年生のとき、父が勤める建設会社が倒産しました。

 

それまで父はその会社の営業所の所長で、私の家庭は割と裕福な家庭でした。

 

本社が遠いところにあり、父はその営業所で大きな権限を持ち、すべてを

任されていたようです。

 

地元の取引先は父を社長のような気持ちで接していました。

 

夏と冬には取引会社からたくさんのお中元・お歳暮が届き、子供心ながらに

父はとても偉い人なんだなと思っていました。

 

しかし会社が倒産してからは私の人生は大きく変わりました。

 

私の家には、お金を支払ってもらえない多くの取引先が押し寄せ、家のドアを

たたいて、父を出せと大声を出していました。

 

私の父は倒産後の処理のためにあちこち回っていて家にはいませんでした。

 

父が不在だとわかると彼らはいなくなりましたが、また次の取引先が来て

ドアをたたきました。

 

私たち家族は怖くなり、彼らが帰った後、荷物をまとめ、親戚の家に避難しました。

 

その後、私が5年生になった時、私たち家族は田舎の家に引っ越しました。

 

私の父は個人で土木関係の事業を立ち上げ、倒産した会社の良好な関係だった取引先

などから仕事をもらっていましたが、なかなか軌道に乗りませんでした。

 

私たち家族の生活は一転、貧乏のどん底まで転落しました。

 

私はその頃、これ以上ないほどの貧乏な生活を経験しました。

とても辛かったと記憶しています。

 

私の母は、いつお金が入るのか見当もつかないなかでやり繰りするのですから

大変不安だったと思います。

 

私も給食費が払えなくて辛い思いをしました。

 

母はいつも父に言っていました、「もうお金がほとんどないけど、今度いつ

お金が入るの?」と。

 

その時の、父の苦渋に満ちた表情は、今でも忘れられません。

 

そんな貧しい時期が長く続きましたが、母は私に、「あなたにはお金の苦労は

してほしくない、将来、大人になったら安定した会社のサラリーマンになって

欲しい」といつも言っていました。

 

それからの私の夢は、大人になったサラリーマンになることでした。

 

普通、小さな子供は、大きくなったら何になりたいかと聞かれると

野球の選手とか、飛行機のパイロットとかお医者さんになりたいとか言いますが

 

私はサラリーマンになりたいと言っていました。

 

その後、父の仕事も軌道に乗り、私は大学まで進学することができました。

そして大学を卒業後、今の会社に入社し、念願のサラリーマンになれました。

 

私の夢はここで達成することができました。

毎月安定した給料が入ってきます。

 

同期入社の仲間はどんどん出世していきますが、私は入社した時にすでに

夢は叶っています。

 

夢が叶った私には、出世に関してはまったく無欲です。

同僚からはいつも、お前はストレスがなくていいなと言われます。

 

無理をすることはありません、みんなはお金のために、寝る間を惜しんで

働いていますが、私は私らしく生きています。

 

私は裕福な生活と貧乏のどん底生活の両方を経験しましたが、貧乏な時のほうが

はるかに愛を見つけやすかったと思います。

 

昔の貧乏な生活を思うと、今はとても幸せなんです。

お金は最低限あればいいのです、愛があれば生きていけるんです。

 

贅沢をしなければ何とかなるんですよ、ゆっくり穏やかに暮らせるんです。

こうやってのんびりブログを書けるのも嬉しいです。

 

人は私のことを見て、人生の負け犬と言うかもしれませんが、

負け犬だって生きていけるんです。

 

なかなか思うようにいかないのが人生、だったら、自分のこころに

正直に生きるのもいいのではないでしょうか。

 

私は負け犬ですが今は幸せなんです。