不幸の連鎖

 

私はふたり兄弟で5歳年上の兄がいました。

 

実家に住む兄は、嫁とふたりの子供の4人家族で暮らしていました。

ところが兄は、子供が小さいうちに病気で亡くなりました。

 

兄嫁は女手一つでふたりの子供を苦労して育てました。

ふたりの子供は成長し、8歳年上の姉は正社員で洋服店に勤め、弟はアルバイトを

しながら大学に通っていました。

 

その頃、兄嫁は病気がちで主に姉が一家の大黒柱でした。

 

弟が大学2年の時でした。

足に黒い斑点ができ、広がってきたので皮膚科に行きました。

 

薬をもらって半年くらい飲んでいましたが治りませんでした。

そのうち斑点が全身に広がり、背中の肩甲骨の付近が腫れてきました。

 

その病院では対処できなくなり、大きな病院を紹介されました。

紹介状を持って診察してもらった結果は、悪性リンパ腫という血液がんの一種でした。

 

病気はかなり進行していて兄嫁と姉はひどく悲しみました。

弟は抗がん剤を使った治療を半年くらい続けましたが、治りませんでした。

 

再度、薬を変えてまた治療を続けることになりました。

抗がん剤による治療はとても辛いのです、弟は落ち込みました。

 

その最中に体の弱かった兄嫁は心労で亡くなってしまいました。

残された姉は仕事をしながらも必死で弟の面倒をみました。

 

何度か抗がん剤の治療しましたが治りません、そこで骨髄移植をすることに

なりました。

 

姉の骨髄を調べてもらいましたが適合しませんでした、しかし、運よく数か月後

ドナーが見つかり、骨髄移植が成功しました。

結局、完治するまでには10年の歳月を要しました。

 

その後、健康をなんとか取り戻した弟は食品工場で働くことになりました。

3年ほど働いていた頃には、職場の人とはとても仲が良くなり楽しく働いていました。

 

そんなある時、職場の3つ年下の女性が弟に結婚をしてほしいと言ってきました。

弟は自分の健康のことで精いっぱいで、結婚のことなど考えていませんでした。

弟はどうしようかと姉に相談しました。

 

その頃姉は10年近く、仕事をしながら弟の面倒を見たせいで身体を壊し、

正社員だった仕事をパートに切り替え収入が少なくなっています。

 

弟がいなくなれば生活が困るのは目に見えています。

自分のために婚期を逃した姉を残して先に結婚するわけにはいきません。

 

ところが姉は、「あなたの人生とって、これほど幸福になれるチャンスはありません、

私のことなど気にしないで絶対このチャンスを生かすべき」と言いました。

長い間悩みましたが、結局、弟は結婚することにしました。

 

結婚してからも弟は姉のことがとても心配でした。

姉は病気であまり働けなくなり、月に数万円の収入でとても苦しい生活を

していました。

 

弟は妻から毎月3万円の小遣いをもらっていましたが、妻には内緒で2万円は姉に

仕送りをしていました。

 

ところが姉が弟の家に遊びに来た時、姉は、弟が妻に内緒にしていることを

知らないで、仕送りしてもらっていることのお礼を言いました。

 

姉が帰った後、妻は弟に激怒しました、自分の家庭のやりくりが大変なのに

なぜ姉に仕送りをするのかと。

 

それから弟の小遣いは毎月1万円に減らされました。

 

弟は仕送りができなくなると姉が困るだろうと思い、サラ金でお金を借りて

仕送りを続けました。ボーナスが入った時返済をしていました。

 

ところが不景気で会社からのボーナスが激減し、返済ができなくなり

借金が雪だるま式に増えました。

 

結局それが妻にばれて離婚することになりました。

弟は姉の元に戻り、一緒に生活を始めました。

 

ところがその姉は、病気がひどくなり働く事もできなくなり、病院生活を

余儀なくされました。

 

自分のことを愛し、やさしく尽くしてくれた姉のために、弟は勤めている会社を

辞めてまで看病を続けましたがその甲斐もなく亡くなりました。

 

一方、元妻は再婚をして子供が生まれましたが、旦那の浮気が原因で

離婚し、シングルマザーの苦しみを味わっています。

 

まさしく不幸の連鎖です。

 

そして、まわりがすべて不幸になった弟の連鎖の先は叔父である私に向かいます。

 

いま私は、甥に悪性リンパ腫の再発がないことを心から願うばかりです。

 

しかし私は、きっと、これからは幸福の連鎖が始まると信じています。