愛とうつ病

 

ある時、友人が私に相談があると連絡がありました。

どんなことかと聞くと心の病だと言うので、会って話をする約束をしました。

 

仕事帰りに時間を合わせてレストランで食事をしながら話を聞きました。

彼はとても落ち込んでいて、注文した料理にほとんど食が進みません。

 

悲そうな顔をして彼が言うには、仕事上の人間関係やミスなどによりストレスが

たまり耐えられなくなり休職していたそうです。

 

何も興味がなくなり、何を食べても美味しくないし、ささいなことにも腹が立つ

ようになり、人と会いたくないと思うようになったそうです。

 

病院で診てもらったところ、うつ病と診断されたようです。

 

3か月ほど薬を飲みながら治療を続けましたが、だんだん収入面で厳しくなり、

すこし病状がよくなったこともあり、復職しました。

 

しかしながら職場の環境が変わったわけではないので、また同じ状態になり

再度休職することとなりました。

 

彼は非常にまじめなタイプで、常に目標を持ち、それに向かって着実に歩んで

行くような人間です。

 

その几帳面さが災いして自分を窮地に追い込んだのかもしれません。

私は彼の職場の人間関係や仕事のやり方などをつぶさに聞きました。

 

会社の経営理念やマニュアルを十分理解し、それに従って今まできちんと

仕事を続けてきたと言います。

 

彼は自分がいくら努力しても思うようにならないのは会社が悪いのだと言います。

その反面、会社に合わせることができない自分が歯がゆいとも言います。

 

生きていくのがとても辛い、死んでしまいたいと言います。

 

私はうつ病になったこともありませんし、心理学者や医者でもありません。

相談されても何の役にも立ちません。

 

でも目の前で、涙目ながらその辛さを訴える彼を見ると見捨てるわけにはいきません。

 

私は彼に聞きました、家族との関係はうまくいっているのかと。

彼は家族をとても愛しているし仲良く楽しく暮らしていると言いました。

 

私はそこで思いつきました、もしかしたら、愛は彼を救うかもしれないと。

私が彼に助言できることはこれしかありません。

 

彼は会社では自分に厳しくそして人にも厳しかったのです。

 

私は彼に、会社の理念やマニュアルも大切だがそれ以上に家族と同様に

会社と人を愛することを大切にしてみてはどうかと言いました。

 

周りの人を見てごらん、人を愛する優しい人の表情を、 とても生き生きして

幸せそうに見えないかと言いました。

 

藁にもすがる思いで私に救いを求めていた彼はそれを聞いてダメで元々、

やってみると言いました。

 

それから彼は再度復職しました、最初の頃は辛かったようですが、できるだけ

相手の気持ちを理解し、愛をもって接することを続けると、次第に会社も人も

 

彼にやさしくなり、彼は以前と比べると表情も明るくなり、3年たった今でも

休まず仕事を続けています。

 

私の言ったことがすこしでも役に立っているのでしょうか。

 

私は愛は必ず人を救うといまでも信じています。