同期入社の固い絆

 

私が今の会社に新卒で入社した時、郊外の研修施設で新入社員研修がありました。

 

数人のメンバーが一つのグループとなり、社会人としてのマナーや会社の経営理念

などを学ぶために4泊5日の日程で寝食を共にしました。

 

私のグループの一員にとても気の合う男がいました。

 

私はいつもため息をつくのでフーちゃん、彼はよっしと言うのがいつも口癖なので

よっちゃんと愛称で呼ぶようになりました。

 

研修が終わって部署や支店が違っても、よく連絡し合ってとても仲が良かったです。

お互いの結婚式には招待し合うし、時々会ってお酒を飲みながら話もしました。

 

それから二十数年が経ちました。私は支店の一部署のリーダーですが、彼は

出世頭で部長職に就いています。

 

彼は時々私の支店にきますが、彼は私のことをいつまでもフーちゃんと呼びます。

私も彼のことをよっちゃんと呼びます。

 

支店のみんなは私が部長のことをよっちゃんと呼ぶのに驚きますが同期入社だと

言うと納得します。

 

ある時、私が仕事で大きな失敗をした時、彼は支店のみんなの前で私を厳しく

叱ります、私はうつむいたまま、じっとしていました。

 

何もみんなの前で叱らなくてもいいのにと落ち込みました。

 

しかし彼はそのあとすぐに私を別室に呼び、みんなの手前、お前を叱ったが

気にすることはない、お前は今のままでいい、また一緒に飲みに行こうと

優しく私に言いました。

 

私は彼の気遣いに涙が出ました。

 

彼はひと月に一度くらい私のいる支店にきますが、ある時、顔色が悪く元気が

ありません。

 

どうしたのか聞くと、最近体調が悪く、食欲もないと言います。

病院に行ったのかと聞くと、忙しくてなかなか行けないと言います。

 

私は健康が一番大切だから、気を付けるようにと言うと、ありがとうと言って

他の支店に向かいました。

 

それから一か月ほどたった頃、彼から電話があり、今病院にいるとの事。

 

数日前からお腹から腰に掛けて激痛があり、仕事もできなくなり、病院で診て

もらったところ、大腸がんだと言われ、即入院したとの事。

 

私はすぐに病院にお見舞いに行きました。

 

彼の説明によると、がんはかなり進行しているが開腹手術でがん細胞を取り除く

予定だそうです。

 

医師の懸命の治療もあって何とか無事手術を終え、彼は退院することになりました。

体調も少しは良くなり、会社に退院後の体調を説明して復職を希望しました。

 

会社側の考えでは、彼の今の状態では部長として復職するのは体力的に無理なので

一般職としてならいいとのことです。

 

彼は私に相談にきました。

 

もし、一般職として戻り、今まで彼が尻を叩いて厳しくしていた人の下に就くなら、

どんなに報復されるかもしれない、それが怖いと言います。

 

会社を辞めようかどうしようかと迷っていると言います。

 

私は人事部長に彼のことで相談に行きました。

 

この人事部長は私が若い頃、私の部下として1年間一緒に働いたことがあるので

気心が知れています。

 

人事部長に彼を私の部署に配属してもらえないかと頭を下げました。

人情味があるんですね、即断でOKしてくれました。

 

私は彼の体調に気を配りながら、無理のないように仕事をしてもらいました。

そのうちだんだん体調も良くなり仕事も順調にこなせるようになってきました。

 

ところが2年くらいたった時、不幸なことに、彼にがんが再発し入院しました。

 

入院中は何度も彼のお見舞いに行きました。

だんだん体がやつれ骨と皮になってきました、とても苦しそうな状態です。

 

そんなとき彼は私に言いました、「自分の人生は波乱万丈だったが、

一番の思い出は、偶然にもお前に出会えたことだ、それが一番の幸せだった」と

言ったのが最後の言葉でした。

 

私は思わず涙がこぼれました。

 

 同期入社である彼と私との固い絆は岩よりも固いものでした。

 

彼との友情は私が死ぬまで決して忘れることはありません。