リストラ研修

 

数年前のことです。

私に本社から一通のメールが届き来ました。

 

件名はよく覚えていませんが、能力開発研修のようなものだったと思います。

当社が指定する40歳以上の正社員、6回に分けて本社会議室で開催。

 

1回の研修に10数人の名前が記載されていました。

私は第2回目の研修メンバーに入っていました。

 

現状の能力の把握と今後の進路についての考え方のような内容でした。

私は今までこんな研修は受けたことがありません、不安でした。

 

第1回目の研修を受けたメンバーの中に同期の社員がいたので電話で

どんな研修だったのか聞いてみました。

 

会社の業績が落ち込んでいるので余剰人員を削減しようとしているようだと

言いました。

 

あれはまさしくリストラ研修だと言いました。

それからはみんな、この研修のことをリストラ研修と呼ぶようになりました。

 

翌週第2回目のリストラ研修のために私は本社に集合しました。

各支店から10数名が集まり、研修前にみんな不安そうに話をしていました。

 

メンバーを見ると、ライバル会社に打ち勝つための厳しい研修と違って、

人にやさしく真面目で出世競争には無頓着なような人ばかり。

 

愛社精神にあふれ、仕事の能力はほんの少し劣るが、額に汗をし、努力することで

何年も会社に残ってきた人間味のある人ばかりのように見えます。

 

私はこんな人たちが活躍できる場があればとても素晴らしい会社になるだろうと

思いました。

 

研修ではまず、人事部長により当社の経営状況の厳しさを説明されその後、

各人に、とても難しくよほど勉強していなければ答えられないような質問をします。

みんなは難しくてほとんど答えられません。

 

人事部長は「よくあなたたちはこのレベルでこの会社に勤めていますね」と

言いました。

まじめで純真なメンバーはとても落ち込みました。

 

そのあと、会社から招かれた、外部の人材会社のスタッフが登場します。

転職市場についての具体的な説明がありました。

 

「安心してください、世の中にはあなたを必要とする会社が

たくさんありますからね」とみんなの心を惑わします。

 

その研修では、決して会社を辞めてくれとは言いません、まじめなメンバーの

心の動揺を誘います。

研修後、みんなは不安になり仕事が手につきません。

 

6回の研修がすべて終わったころ、会社から、早期退職者には

退職金の割り増しをすると発表がありました。

巧みな会社側の戦術です。

 

私は、今回の研修のメンバーであり、同期入社の親しい社員にどうするかと

相談しました。

 

彼はまず、家族に話してそれから決めると言いました。

私も彼と同様に家族と話をすることにしました。

 

希望退職者の募集の期限が迫り、再度、彼にどうするのかと聞いたところ、

 

妻に「あなたがここまで何十年も無事勤められ何不自由なく暮らしてこれたのは

会社のお陰よ、その会社が今困っているのならその恩返しの意味で辞めてもいい」と

言われ退職する事に決めたと言いました。

 

一方私は、妻に相談したところ、「あなたのように仕事ができない人がよそに

行ってもどこも雇ってくれないでしょう。家族のことを想うのなら、このまま

今の会社に居続けてほしい」と言われ私は会社に残ることにしました。

 

会社想いの彼が辞めて、会社より家族を想う私が会社に残りました。

私は今でも彼に対してとても申し訳ないと言う気持ちが消えません。

 

その時は多くの善良で真面目な社員が、様々な気持ちを持って退職しました。

私はこんなことをしていては会社の将来はないと思いました。

 

私が思うに、企業は、能力があり、即戦力になる人だけではなく

人の気持ちを十分に理解し、本当にお客に喜ばれ満足をしてもらえる商品や

サービスを提供できる優しい人にも活躍の場を与えてみてはどうでしょうか。

 

人を想う心には年齢や学歴は関係ありません。

 

そうすれば今回のような悲劇は起こらなかったのではないかと思います。