娘の寝顔

 

私の娘が小学校に入学したころ、私は子供好きなので休みの日はいつも

娘を連れて公園に行って遊んだものです。

ブランコに乗ったり、砂場で砂遊びなどよくしました。

 

夕食の時、私はよそ見をしていてうっかりお茶をこぼした時、娘はまるで

母親か妻のように、よそ見しないでしっかり見て食べなさいと叱ります。

それがまた可愛いのです。

 

ちょうどその頃、私の会社では春の人事異動で私は営業部門から経理部門に

配置転換になりました。

 

前任の男性社員が他の支店に異動となり私がそのあとに配属です。

 

そこには私より15歳ほど年下の入社6年目の経理のベテラン女子社員がいます。

この子は私の部下になりますが、仕事の面では立場が逆です。

 

私は経理は初めてなので、すべて彼女から教えてもらうことになります。

私は仕事ができないうえ、変化への対応力の全くない人間です。

よく怒られました。

 

何回教えたらわかるんですか、しっかりしてください、あなたは私の上司ですよと

私を軽蔑の眼で見ます。

 

私は何度も聞くのがいやになり、本社に電話でわからないことを聞いていると、

どうしてそんな簡単なことを本社に聞くの、私に聞けばいいのにと顔に書いて

あります。

 

つらくて食欲もないうえ、胃痛と下痢が続きました。

失敗続きの地獄の毎日が3か月たちました。

 

私にはこの仕事は向いていない、もう会社を辞めようかと思いました。

 

そんな頃、私は家で寝ていて、明け方、仕事の夢でうなされて目が覚めました。

 

横を見ると娘が無邪気な顔をしてすやすや眠っています。

 

私が今仕事を辞めたらこの子はどうなるのだろう、今までのような美味しいご飯も

きれいな洋服も明るい笑顔もすべて失ってしまうかもしれない。

 

この子に何の罪はない、悪いのはすべて私だ、この子を立派に育てることも

できない私は親としては失格だと思いました。

 

私は涙が出てきました。

気付かれないようにトイレに駆け込み号泣しました。

 

つらくて情けない気持ちを涙と一緒に流しました。

 

すると気分が落ち着き、ダメでもともと、やれるだけ仕事をやってみるかと

いう気持ちになりました。

 

その後、半年、1年とだんだん仕事にも慣れてきて、余裕が出てきました。

ミスばかりしていて時間がかかっていた仕事も慣れるとうまくいくようになりました。

 

部下の女性にも冗談で、最初の頃私が何もわからないからといって

よくいじめてくれたなと笑いながら話をするようになりました。

 

それからは順調に仕事が続けられて辞めなくてすみました。

 

あの時の娘の寝顔は私の人生のなかでも忘れられない貴重な場面です。

 

親が子供を想う気持は、実際、なってみなければわかりませんね。