基本に忠実な人

 

私の職場には清掃作業するパート社員がいます。

建物が広いので4人のパートで一日かけて清掃します。

 

全員女性で、一人は50代のリーダー、40代が二人、そして20代の新人です。

20代の新人については、若いのによくこんな地味な仕事についているなと

感心していました。

 

ほうきと塵取りと雑巾そして大きなごみ袋を持って回っています。

従業員の仕事の邪魔にならないように気を付けて清掃しています。

 

私は自分の仕事に集中しているときにはその人たちの存在は忘れています。

まるで空気のような存在です。

 

私は清掃作業は体が丈夫であれば誰にでもできる簡単な仕事だと思っていました。

ただし、きれいな仕事ではないので大変だと思いながら感謝はしていました。

 

ある日、清掃パート社員のリーダーが新人のパートをきつく叱っています。

私は何があったのだろうかと聞いていました。

 

窓ガラスのふき方が雑で全然きれいになっていないと言っています。

私はその窓ガラスを見てもそんなに汚れているとは思いませんでした。

 

そのリーダーは窓枠の角の部分に少し残ったほこりを指摘しています。

よく見なければ、遠くからではわからないほどの少量のほこりです。

 

私はこれくらいのことでそんなに叱らなくてもいいのにと思いました。

 

そんなある日、新人はリーダーにきつく叱られて涙を流していました。

他のふたりはこのリーダーの厳しさを知っていて黙っています。

 

私はそれ見て、我慢ができなくなり、彼女は一生懸命にやっているのだから

そんなにきつく叱らなくてもいいのではないかとリーダーに言いました。

 

 

どこがいけないのかと聞いたところ、この新人は全く清掃の基本ができて

いないし心が全然こもっていないと言います。

 

また、自分の仕事は誰のためにやっているのか理解できていないと言います。

 

ここの従業員の皆さんはお客様のために、朝から晩まで一生懸命に頑張って

働いています。

清掃の仕事をしながらでもその気持ちはひしひしと伝わってきます。

 

私たちの仕事はそんな従業員の方に少しでもきれいな環境で快適に働いてもらえる

ようにきちんと清掃することが大切です。

そのためには清掃の基本をしっかり身につけなければなりません。

 

彼女は今まで何度も転職をし、ひとつの職場に長続きできませんでした。

ここに来た時も、ほかで雇ってもらえないので、仕方なくいやいや清掃の仕事を

しているのが見え見えでした。

 

基本が身について初めて仕事に愛を持つことができるのです。

 

それだけではありません、将来、彼女がどこか別の仕事のついたとしても

仕事に対する基本の大切さを身につければ、どこでも通用します。

 

私は彼女をいじめてはいません、愛をもって教育しているのです。

 

 

 

清掃の仕事を安易に考えていた私は自分が叱られているような気がしました。

私がもしこのリーダーの下で一緒に仕事をしていたら彼女と同じように

コテンパンに叱られたでしょう。

 

私の部署にもこんなに仕事に対する愛と厳しさを持った人はいません。

どんな仕事でも愛をもって仕事をする人は素晴らしいと思いました。

 

 私は未熟な人間です、この歳になってやっと職業には貴賎がないという

本当の意味が理解できました。

 

もし私が社長なら、基本を忠実に守り愛と信念を持って仕事を貫く彼女を

きっと人事部長に抜擢するでしょう。

それだけの力のある人物だと思いました。

 

でも私にはそのような権限がないのがとても残念です。