スーパーの店長さん

 

あるスーパーマーケットの話です。

 

そこにはとてもまじめで本部の言うことを忠実に実行する店長さんがいました。

彼は一流大学を卒業し、頭もよくとてもまじめな人物でした。

 

彼はマニュアルを重視し従業員にもそれを徹底していました。

売り場も整然としていて商品は碁盤の目のようにきちんと並んでいます。

 

接客時のあいさつはマニュアルの写真通りできているかチェックします。

口角を上げた笑顔、頭を下げる角度、視線の方向、手の位置などです。

 

商品の廃棄ロスについてもとても厳しいです。

売れる金額を過去のデータに基づき発注量や製造量を決めさせます。

 

それに従って社員やパートは販売します。

実に合理的な店舗運営です。

 

彼は朝早くから出勤し、閉店近くまで各部門の応援などで忙しそうです。

部下はそれを見て店長の仕事は長時間でとてもつらそうなので自分は店長には

なりたくないと思います。

 

しかし、店長がこれだけ頑張って働いてもお店の業績はよくありませんでした。

社員やパートもがんじがらめのマニュアルに縛られ覇気がありません。

 

そのうち人事異動があり店長が交代することになりました。

前の店長と違って高卒ですが笑顔が素晴らしくイキイキしています。

 

その店長の言うことには、お客の気持ちを理解するのが一番で、マニュアルは

時と場合によっては必ずしも守らなくてもいいと言います。

 

若い頃、苦労したんでしょう、とても人間味のありそうな店長です。

しかしながら仕事はとても厳しいのです。

 

常にお客の立場に立って考えろと言います。

気持ちのこもっていない接客や商品づくりをすると鬼のように怒ります。

 

お店でお客と接するときは満面の笑顔ですが裏にまわると別人のようになります。

指示に通り動くパートさんには優しく、それを指示するリーダーに厳しく当たります。

 

しかし教育熱心で、商売とは何かをこころと身体で教えてくれます。

接客時のあいさつも写真ではなく店長が自ら心を込めて見本を示します。

 

そのうちだんだん店長のやり方も従業員に浸透し業績もよくなってきました。

売場は以前と比べて、躍動感や季節感が出てお客がびっくりするほどです。

 

ところがどこの世界にも、ひとりやふたり、そのやり方が気に食わなくて

おもしろくないと考えるのがいます。

 

ここでは鮮魚のリーダー。

入社歴20年で店長より先輩。

 

来週はお刺身祭りで鮮魚がメインのチラシ広告が出る。

売り込み商品はお刺身盛り合わせ1パック598円。

 

店長は彼を事務所に呼びその打ち合わせ。

店長は愛情をこめて売りたいから目標数量を言ってくれという。

 

リーダーは無難に昨年の10%アップの数字を提示。

店長は激怒して、あなたの愛情はこの程度かという。

 

彼は、お前はたまたま店長だが、鮮魚歴20年の俺に後輩のくせして生意気言うな、

愛で魚が売れるなんてそんなに世のなか甘くはないと言う。

 

店長は強い口調で私の責任で去年の2倍売りたいからその分仕入れてくれという。

彼はその熱意に負けて店長が責任を取るならと渋々昨年の2倍発注をする。

 

当日、鮮魚リーダーはどうやってこの商品を売ろうかと考えた。

今までのように売っていたのでは売れるわけがない。

 

考えた末、一番目立つ場所に今までの倍のスペースを取り商品を並べたところ、

何故か今までとは違うボリューム感ある、生きた売り場ができてしまった。

 

おもしろくなってPOPや販促物をさらに加えるとますます目立つ売り場になった。

お客がたくさん集まってくるので声を出して呼び込みをすればさらに活気づいた。

 

結局、目標の数が夕方19時には売れて品切れになった。

 

彼は知らない間に愛ある売り場を作っていたのです。

 

愛に気付いた彼は、まるでエビが飛び跳ねるような活きた心で愛を伝える仕事を

続け、その後、店長の推薦で本部の課長に昇進し、今では部下を指導しています。

 

この店長、仕事にはとても厳しいが、人にはとてもやさしい。

 

愛と感謝を込めてお客や従業員に対すれば誰も店長を裏切らない。

 

こんな店長なら部下も早く店長になりたいと思うでしょう。