私は今日、カレーになりました

 

私はカレーです。

お客の来ないカレー屋のカレーです。

 

店主は朝早くから、夜遅くまで、寝る暇がないほど働いています。

今日も開店前に朝早くから私は作られます。

 

細かくきざまれた、玉ねぎとにんにく、生姜を炒め、トマトを加えます。

スパイスを加え、炒めたお肉と一緒に煮込みます。

 

私は店主の手間暇かけた作りで美味しく出来上がりました。

愛を込めて作られた私はどんなスパイスを加えるよりも味わい深いのです。

 

でも、開店して一か月が過ぎようとするのにお客はほとんど来ません、

開店休業状態です。

たまに来るお客も2度目は来ません。

スタッフも笑顔がなくなり暗い気持ちで働いています。

 

店主は厳しさで胃痛が続いていた会社員時代、とてもつらく辛抱できなくて、

好きなことで飯が食えたらと脱サラし、美味しければお客は来てくれる、

という安易な考えでカレー屋を始めたが世の中は甘くない、私のように辛いのよ。

 

辛い私は食べた後、時間がたって美味しさを感じると言うけれどそうなの?

いつになったら感じてくれるの、食べたお客は戻ってこないよ。

 

店主はこれでもかこれでもかと、美味しい私づくりに日夜頑張っているが、客足は

一向に遠のいたまま。

 

私の気持ちをわかってよ。

 

近所にあるカレー屋さん見てごらん、この店と同じように見えるけど、どこが違うか

見てきてごらん。

お昼のピークにはお店に入れないお客が外まで並んで待っている、なぜかわかる?

 

あなたは私に溢れんばかりの愛情を注いでいる。

そして完成したその味はライバル店と比較しても遜色ない。

 

よく見てごらんなさい、そのお店のスタッフの目の輝きを、イキイキとして働いて

いるでしょう。

お客も楽しく美味しそうに食べている。また来るねと満足して帰っている。

 

何が違うのかわかったでしょう。そこには確かな愛があることが。

愛があるからこそ常連客でお客が溢れるのがわかる?

 

あなたは私には特別に優しく愛を注いできました。

でも、お客やスタッフに対する愛情はどうでしたか?

 

あなただけが頑張っただけではだめよ。

私をお店の主役にしてくれるのはお客さんとスタッフのおかげ。

 

お客に愛を伝えるためには、スタッフの愛情ある接客や、清潔感ある店づくり。

手ごろな価格で美味しく私を食べてもらえる価値の提供。

 

スタッフへの愛は作業のしやすいお店のレイアウト、無駄のない作業手順の

教育、作業を楽にしてあげてその分お客に対する愛ある接客の教育。

 

 

カレー屋のカレーは美味しいのが当たり前、でも人によって好みは違うもの。

すべての人に私の味が好まれるわけではないけれど、少しでもお客がふえる

ように私の味を変えてね。

 

また、2度目に来たお客を、前より美味しく感じさせるように私を常に成長

させてね、それが固定客作りにつながるから。

 

そのうちお客さんが増えてきたら、さらに私を美味しくするように、値段は

変えないで価値を高めてね。

スタッフにも少し給料を上げてもっと働きやすくしてね。

 

愛があるからこそ商売が繫盛するのだとカレーの私は思う。

 

手を抜くとまた、会社員の時のように私の辛さで胃を痛くするからね。